「あの時は合意した」は通用しない。 セクハラの法的境界線

「あの時は合意の上だったじゃないか」
「昔は恋人同士だったんだから、これくらい良いだろう」
かつて同意があったことや、過去の親密な関係を盾に、今は望んでいない性的な言動を繰り返され、どう反論すればいいか分からず悩んでいませんか。
加害者からそう言われると、
「私が悪いのかな…」
と自分を責めてしまうかもしれません。 しかし、その考えは明確に間違いです。
この記事では、セクハラ問題で加害者側が主張しがちなこの論点が、なぜ法的に通用しないのか。その明確な法的基準と、あなたの「NO」という気持ちが正当である理由を、Q&Aを交えながら分かりやすく解説します。
セクハラの判断基準は「今、その瞬間の意思」
セクハラが成立するかどうかを判断する上で、法律が最も重視するのは「過去のいきさつ」ではありません。
あなたの「今の気持ち」が全て
セクハラにおける最も重要な法的基準は、
「その言動が行われた、まさにその瞬間に、あなたがどう感じていたか」
です。
「過去の同意」は将来の同意を意味しない
法律的に、過去に同意があったという事実は、
「その時点での同意」を意味するに過ぎず、
「将来にわたって全ての言動に同意し続ける」ことを意味しません。
たとえ過去にどのような関係性があったとしても、現在のあなたが
「嫌だ」
「不快だ」
と感じるならば、その気持ちこそが尊重されるべき絶対的な基準なのです。
これは、男女雇用機会均等法でも明確に示されている、セクハラ問題の基本的な考え方です。
🔑 ワンポイント
一度でも明確に拒絶した後の行為は、過去の関係性に関わらず極めて悪質なセクハラと判断されます
FAQ(よくある質問)
セクハラの基本的な考え方について、よくある疑問にお答えします。
はい、明確にセクハラです。過去に恋人関係であった事実は、現在の職場であなたが望まない身体的接触を我慢する理由にはなりません。
一度だけお酒の席で関係を持ったその一度の合意が、未来のすべての同意を意味するわけではありません。「あの時は合意した」という相手の主張は通用しません。今のあなたが「嫌だ」と感じるなら、それはセクハラです。
いいえ、あなたは悪くありません。パワハラ的な関係性の中で、恐怖から明確に「NO」と言えない状況は十分にあり得ます。相手があなたの困惑を無視して行為を続けるなら、それはセクハラです。
あります。たとえ相手に好意があったとしても、その言動があなたの望まない形で行われ、不快感や屈辱感を覚えるのであれば、それはセクハラに該当します。
「職場環境」が悪化すればセクハラになる
直接的な身体接触だけがセクハラではありません。性的な言動によって、あなたが働く環境が不快なものとなり、仕事に集中できなくなることも、法律で禁止されている「環境型セクハラ」に該当します。
「就業上看過できない程度」の不利益
「環境型セクハラ」のポイントは、
「平均的な女性(あるいは男性)従業員の感じ方を基準として、社会通念上、就業する上で看過できない程度の支障が生じるか」
どうかです。
たとえ一度の発言でも、その内容が極めて屈辱的であったり、過去の関係性を職場の人々に言いふらされたりすることで、あなたが「働きにくい」と感じ、業務に支障が出るのであれば、それは違法なセクハラとなりえます。
🌈 ちょっと一息
あなたの能力が十分に発揮できないような職場環境を作り出すこと自体が、違法な権利侵害です
FAQ(よくある質問)
職場環境とセクハラの関係について、よくある疑問にお答えします。
個人のプライバシーを本人の許可なく暴露し、職場に居づらくさせる行為は「環境型セクハラ」に該当する可能性が高いです。
法的手続きでは「言った・言わない」の立証が重要になります。いつ、どこで、何を言われたかを詳細に記録(日記、メールなど)しておくことが、あなたの主張を裏付ける重要な証拠となります。
セクハラは、周りの人がどう思うかだけではなく、行為を受けた本人が不快に感じ、就業環境が害されたかで判断されます。あなたが「働きにくい」と感じているなら、それは問題です。
職場で起きている以上、それは「個人的な問題」ではありません。会社には、従業員が快適に働ける職場環境を維持する義務(職場環境配慮義務)があります。
「嫌だ」という意思表示の重要性と、その方法
加害者の「合意があった」という勝手な論理を覆し、あなた自身を守るためには、「嫌だ」という意思を何らかの形で示すことが、残念ながら重要になってきます。
記録に残る、明確な意思表示を
法的な観点からは、「無視」や「泣いてしまった」という状況だけでは、拒絶の意思が明確に伝わったと判断されない可能性もゼロではありません。
もし可能であれば、以下のような明確で記録に残る方法で意思表示を試みることが、あなたを強く守ることに繋がります。
- メールやLINEで明確に伝える
⇒ 「先日の〇〇という発言は、不快でした。今後は一切やめてください」と、はっきりと拒絶の意思をテキストで送る - 信頼できる第三者に相談し、記録してもらう
⇒ 信頼できる上司や人事部に相談し、「〇〇という行為に悩んでおり、やめてほしいと伝えてもらう」よう依頼し、その事実を記録に残してもらう
🔑 ワンポイント
明確な意思表示は、あなた自身を守るための重要なステップであり、後の相談や手続きで「あなたが拒絶していた」ことの強力な証拠にもなります
FAQ(よくある質問)
意思表示の方法について、よくある疑問にお答えします。
一度でも明確に拒絶の意思を示したにも関わらず、相手が言動を続ける場合は、極めて悪質です。すぐに人事部や外部の専門機関に相談すべき段階です。
無理に直接伝える必要はありません。まずはメールや、信頼できる第三者を介して伝える方法を検討してください。あなたの安全が最優先です。
セクハラを拒否したことを理由に、解雇や降格などの不利益な取り扱いをすることは、法律で固く禁じられています。もし報復を受けたら、それはセクハラとは別の、さらなる違法行為です。
もちろん可能です。「どうやって断ればいいか分からない」という状態でも、会社の相談窓口や外部機関は相談に乗ってくれます。一人で悩まず、まずは相談してみましょう。
まとめ
今回は、セクハラ問題における「過去の同意」という論点について、法的な基準を解説しました。
- セクハラの判断基準は、常に「今、この瞬間」のあなたの意思である
- 過去の同意は、その時点での同意に過ぎず、将来の同意を意味しない
- 職場環境を「就業上看過できない程度」に悪化させることもセクハラになる
- 「嫌だ」という意思表示は、記録に残る明確な形で行うことがあなたを守る
加害者の勝手な論理や、「昔は良かったじゃないか」という言葉によって、自分自身を責める必要は全くありません。あなたの「NO」という気持ちは、誰にも否定することのできない、あなただけの正当な権利です。
自信を持って、あなた自身の尊厳を守るための行動を起こしてください。
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