前のページでは、
職場における代表的なハラスメントである「パワハラ」の6つの類型について、詳しく見てきました。
しかし、あなたを苦しめる攻撃は、上司から部下へといった権力関係を利用したものだけではありません。
職場には、性的な言動で相手を不快にさせる「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」や、言葉や態度でじわじわと相手の精神を追い詰める「モラルハラスメント(モラハラ)」といった、さらに巧妙で陰湿な攻撃も存在します。
これらのハラスメントは、パワハラと同時に行われることも多く、被害をより深刻化させます。
ここでは、セクハラとモラハラの具体的な実例と、その他にも知っておくべきハラスメントの種類について解説します。敵の姿を正確に知ることで、あなたの苦しみの正体を明らかにしていきましょう。
―― このページはこんな3本柱でお届けします ――
🚀 セクシュアルハラスメント / 🎯 モラルハラスメント / 🔥 その他のハラスメント
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
職場における「セクシュアルハラスメント」とは、相手の意に反する性的な言動によって、働く上で不利益を与えたり、職場環境を悪化させたりすることです。
2つのタイプ:「対価型」と「環境型」
セクハラは、その内容によって大きく2つのタイプに分けられます。どちらか一方だけでなく、両方の性質を持つ悪質なケースも存在します。
対価型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的な言動に対し、拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を与えるタイプです。職務上の地位を悪用した、非常に悪質な行為と言えます。
具体的な言動の例
- 事業主が、労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため解雇する。
- 上司が、出張中の車内で労働者の身体を触ったが、抵抗されたため不利益な配置転換を行う。
- 昇進の条件として、執拗に二人きりでの食事やデートに誘う。
環境型セクシュアルハラスメント
性的な言動が繰り返し行われることで、職場環境が不快なものとなり、労働者が能力を発揮する上で、看過できない程度の支障が生じるタイプです。
具体的な言動の例
- 同僚が、事務所内で性的な内容の噂話を流したり、ポルノ画像を閲覧したりする。
- 上司が、日頃から「彼氏はいるのか」「どんな夜を過ごしたんだ」などと、性的な事柄を執拗に質問する。
- 宴会の席で、デュエットや酌を強要したり、不必要に身体に触れたりする。
🔑 ワンポイント
たとえ相手に「冗談のつもり」「悪気はなかった」という意識しかなくても、あなたが「不快だ」と感じた時点で、それはセクハラに該当します
🌈 ちょっと一息
性的な言動による不快感は、決して「あなたが過敏なせい」ではありません。それは、あなたの人間としての尊厳を守るための、正当で自然な感情です
モラルハラスメント(モラハラ)
「モラルハラスメント」とは、言葉や態度、身振りなどによって、継続的に相手の人格や尊厳を傷つける精神的な暴力のことです。
周囲に気づかれにくい「精神的な暴力」
モラハラは、パワハラのように明確な上下関係を必要とせず、同僚間や、時には部下から上司へと行われることもあります。
一つ一つの行為は、暴言や暴力のように分かりやすいものではないため、被害者は「自分が気にしすぎなのかもしれない」と自分を責めてしまいがちです。
しかし、些細に見える攻撃が執拗に繰り返されることで、被害者の心は確実に蝕まれていきます。
具体的には、どのような行為か
- あなたが話しかけても、意図的に無視する
- 何かと理由をつけて、ため息をついたり、舌打ちをしたりする
- あなたの成果を、まるで自分の手柄のように横取りする
- 事実無根の悪口や噂を、裏で言いふらす
- わざと実現不可能な指示や、矛盾した指示を出して困らせる
🔑 ワンポイント
一つ一つの行為は小さくても、継続的に繰り返されることで心を破壊するのがモラハラの特徴です。「気にしすぎかも」と感じさせること自体が、加害者の巧みな手口です
🌈 ちょっと一息
あなたの「何かおかしい」という直感は、多くの場合、正しいものです。目に見える証拠がなくても、あなたの心が感じている違和感を信じてください
その他、知っておくべきハラスメント
社会の変化とともに、これまで問題視されてこなかった行為も、新たに「ハラスメント」として認知されるようになってきています。
マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産、育児休業などを理由として、解雇や雇い止め、降格といった不利益な取り扱いを行うことです。男女雇用機会均等法などで明確に禁止されています。
- 具体的な言動の例
- 妊娠を報告した女性社員に対し、上司が「迷惑だ。辞めてもらえないか」と退職を強要する。
- 育児休業から復帰した社員を、何の合理的な理由もなく、元の職場から遠隔地の単純作業部門へ異動させる。
- 「男のくせに育児休業を取るなんて」といった、制度利用を妨害するような言動。
🔑 ワンポイント
妊娠・出産や育児は、個人の尊厳であると同時に、社会全体で支えるべきものです。それを理由とした不利益な扱いは、断じて許されません
ジェンダーハラスメント
「男だからこうあるべき」「女だからこうあるべき」といった、性別による固定観念や役割分担の意識を押し付ける言動です。
個人の能力や意欲を正当に評価せず、性別という属性だけで判断する、差別的な行為です。
具体的な言動の例
- 「女性なのだから、お茶くみや掃除は率先してやるべきだ」と強要する
- 「男なんだから、これくらいの残業は根性で乗り切れ」と、非合理的な長時間労働を強いる
- 本人の能力や希望を無視し、「この仕事は女性には向いていない」と重要な業務から外す
🌈 ちょっと一息
あなたの性別は、あなたの能力や価値を決めるものではありません。「男だから」「女だから」という言葉で、あなたの可能性を縛り付けようとする声に耳を貸す必要はありません
まとめ
ここまで、パワハラ以外の様々なハラスメントについて見てきました。 これらの攻撃は、形こそ違えど、個人の尊厳を踏みにじり、心を深く傷つけるという点で、すべて共通しています。
- セクハラ⇒ 性的な言動で相手を不快にさせる行為
- モラハラ⇒ 言葉や態度でじわじわと精神を追い詰める行為
- マタハラやジェンダーハラスメント⇒ 妊娠や性別を理由とした不当な差別
あなたを苦しめているものの正体が、これらのいずれかに当てはまると理解できたでしょうか。 その上で、次のページでは、こうしたハラスメント行為に対して、社会がどのようなルールを定め、あなたを守ろうとしているのかを見ていきます。
「法律という名の盾。あなたを守る法律の限界と可能性」で、一緒に学んでいきましょう。