ハラスメント後遺症を和らげる「心の応急処置」

突然、嫌な記憶が鮮明に蘇ってきて、動悸が止まらない…
理由もなく涙があふれて、体全体がこわばってしまう…
ハラスメントがあった職場から離れたはずなのに、ふとした瞬間に心が過去に引き戻される「ハラスメント後遺症」の症状は、本当に苦しいものです。
これは、あなたが弱いからではありません。心と体が、耐え難いストレスから自分を守ろうとして起こる、自然な反応なんです。
この後遺症の辛さは、まるで急な出血や火傷のように、その瞬間に対応が必要な「心の怪我」です。
この記事では、苦しい気持ちが込み上げてきたときに、今すぐ心を「守る」ための具体的な「応急処置」の方法を解説します。
フラッシュバックが起きた瞬間の「物理的な応急処置」
フラッシュバックや強い不安に襲われている瞬間は、感情が暴走し、心が過去のトラウマに囚われている状態です。
その場から意識を物理的に引き剥がし、
「今、ここ」に安全にいる
という感覚を取り戻すための具体的な行動を紹介します。
1. 意識を外側に向ける「グラウンディング」
不安が強いとき、自分の五感を強制的に「今の現実」に引き戻す方法です。
- 見る
⇒ 周りにある青いものや四角いものを5つ見つけて数えます - 触る
⇒ 手のひらで机の冷たさや服の素材感を3つ感じる - 聞く
⇒ 聞こえてくる音を3つ数える(エアコンの音、車の音など)
2. 体の緊張を意図的に解き放つ
後遺症の症状の一つとして、体がこわばったり、震えたりすることがあります。
- 肩や首にギュッと力を入れ、数秒後に一気に脱力する
- ゆっくりと時間をかけて、腹式呼吸を5回繰り返す
- 両足を床にしっかりとつけ、足の裏が地面についている感覚に集中する
3. 場所を移動して「安全地帯」を確保する
可能であれば、その場から一時的に離れることも重要です。
- トイレや休憩室など、人の目が届かない安全な場所に数分間移動します
- 窓の外の景色や、全く関係のないテレビ番組などを見て、意識を別の刺激に向ける
🔑 ワンポイント
応急処置の目的は、感情をねじ伏せることではなく、「今、私は安全だ」と心に伝えることです
「心の声」を一時的に封鎖する簡単な思考法
フラッシュバック中は、
「私が悪かった」
「どうしようもない」
といった自己否定的な思考が頭の中をグルグル回り続けます。この「心の独り言」を一時的に止めるための簡単なテクニックを紹介します。
1. 思考に「ラベル」を貼って距離を置く
頭の中に浮かんだ否定的な思考を、事実として受け取るのではなく、「ただの思考のノイズである」として客観視します。
- 頭の中で「これは『不安の考え』だ」とラベルを貼る
- 「私は今、過去の記憶を再生しているだけ」と自分に言い聞かせる
- 思考を雲や電車に見立てて、そのまま流れていくのを見送るイメージをする
2. 「緊急事態」の問いかけで冷静になる
今、本当に命にかかわる緊急事態なのかを自分に問いかけ、思考を現実に戻します。
- 「今、私は本当に危険な場所にいるの?」
- 「この感情は、今起こっていることに対する反応なの?」
- 「私を傷つけようとする人は、この部屋にいるの?」
3. 「安全な場所」のイメージをストックする
心の中で完全に安全な場所(海辺、森の中、子どもの頃の部屋など)を具体的にイメージし、そこに避難する感覚を掴みます。
- その場所の色、匂い、温度をできる限り鮮明に思い浮かべる
- 過去のつらい記憶から、意識的に「安全な場所のストック」へと切り替える
🌈 ちょっと一息
思考を止めようとするのではなく、思考を「ノイズ」として聞き流すことがポイントです
応急処置後に「未来の自分」のためにすべきこと
心の応急処置で辛い瞬間を乗り越えたら、それがゴールではありません。あなたの心の健康を守り、根本的な回復へつなげるために、次のステップに進みましょう。
1. 記録に残して「証拠」を確保する
応急処置で冷静になった後、フラッシュバックや強い症状が出たときの状況を簡単に記録しておきます。
- 何を見て(聞いて)フラッシュバックが始まったのか
- その時、体のどこがこわばっていたのか
- どのような思考が頭の中を巡っていたのか
この記録は、後で専門家に相談する際の非常に重要な情報になります。
2. 専門家へ相談することを最優先にする
応急処置は、あくまで緊急時の対処です。ハラスメントの後遺症は、専門的な治療やカウンセリングで必ず和らげることができます。
- 心療内科や精神科の受診をためらわないでください
- 「専門家の視点」記事などを参考に、信頼できるカウンセラーを探しましょう
- 休職や転職が後遺症の治療に役立つこともあります。勇気を出して一歩踏み出すことを考えてみませんか
まとめ
ハラスメント後遺症は、あなたの心が過酷な状況からあなたを守った「勲章」のようなものです。フラッシュバックや強い不安に襲われたときは、まずこの「心の応急処置」を試して、安全な「今」に戻ってきてください。
心が限界だと感じたときは、一人で抱え込まず、必ず専門家の手を借りましょう。あなたには、穏やかな日常を取り戻す権利があります。
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