ここまで、パワハラ・セクハラ・モラハラといった、
あなたを苦しめる様々なハラスメントの「顔」について見てきました。
その正体を知った今、次にあなたが知るべきは、それらの攻撃からあなたの身を守るための社会的なルール、すなわち「法律」の存在です。
法律は、理不尽な暴力に立ち向かう上で、あなたを守る非常に強力な「盾」となり得ます。しかし、その盾は万能ではありません。
法律ができること(可能性)と、できないこと(限界)の両方を正しく理解しておくことが、あなたが今後、現実的で賢明な選択をするための道しるべとなります。
ここでは、あなたの武器となる法律の可能性と、知っておくべき限界について、分かりやすく解説していきます。
―― このページはこんな3本柱でお届けします ――
🚀 法律の可能性 / 🎯 法律の限界 / 🔥 盾を最大限に活かす
法律の可能性(あなたにできること)
法律を味方につけることで、あなたは泣き寝入りするのではなく、具体的な行動を起こすことができます。
会社の責任を問い、環境改善を求める
2020年に施行された「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」により、企業にはハラスメント対策を講じることが義務付けられました。
これは、働くあなたにとって非常に大きな後ろ盾です。
会社の講ずべき措置義務
- 相談窓口の設置
- ハラスメントに関する研修の実施
- 再発防止策を講じること
もし会社がこれらの義務を怠っていれば、あなたは安全な環境で働く権利が侵害されているとして、会社に対して職場環境の改善を要求することができます。
🔑 ワンポイント
法律は、ハラスメントを「個人の問題」ではなく「会社の責任問題」として捉えています。あなたは、会社に安全な職場を提供するよう、正々堂々と要求できるのです
精神的苦痛に対する賠償(慰謝料)を請求する
ハラスメントによって受けた精神的な苦痛は、民事上の「不法行為」にあたります。
そのため、あなたは加害者や、その使用者である会社に対して、慰謝料という形での損害賠償を請求することができます。
請求のポイント
- 証拠の重要性
⇒ 慰謝料請求が認められるには、ハラスメント行為があったことを客観的な証拠で示す必要があります - 会社の責任(使用者責任)
⇒ 多くの場合、加害者個人だけでなく、従業員の監督責任がある会社も、その賠償責任を負うことになります
労働災害(労災)として補償を受ける
ハラスメントが原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合、それは業務上の災害、すなわち「労働災害(労災)」として認定される可能性があります。
労災認定のメリット
労災として認められれば、あなたは以下のような補償を受けることができます。
- 治療費
⇒ 精神科や心療内科の受診にかかる費用が、原則として全額支給されます - 休業補償
⇒ 療養のために仕事を休んでいる間の生活を支えるため、給料のおよそ8割が補償されます
🌈 ちょっと一息
「法律なんて難しそう」と、最初から諦める必要はありません。これらはすべて、理不尽な被害に遭ったあなたを救済するために用意された、正当な権利なのです
法律の限界(知っておくべきこと)
法律は強力な武器ですが、残念ながら万能ではありません。その限界を知っておくことも、冷静な判断のためには不可欠です。
加害者個人を直接罰することは難しい
多くの人が誤解しがちな点ですが、現在の日本の法律では、ハラスメント行為そのものを取り締まる直接的な刑罰は、基本的にはありません。
刑法と民法の違い
- 刑法
⇒ 殴る、蹴るといった「身体的な攻撃」が暴行罪や傷害罪にあたる場合を除き、暴言や無視といった行為だけで、加害者が警察に逮捕されたり、懲役刑になったりすることは、ほとんどありません - 民法
⇒法律が主に役割を果たすのは、慰謝料請求などの「民事」の世界です。あくまで、発生した損害をお金で賠償させるという形での解決が中心となります。
🔑 ワンポイント
法律の主な役割は、加害者を罰することよりも、被害者の受けた損害を回復(救済)することにある、と理解しておきましょう
「証拠」がなければ事実認定が困難
法律の世界では、「証拠がすべて」と言っても過言ではありません。
あなたがどれだけ辛い思いをしたとしても、それを裏付ける客観的な証拠がなければ、法的に「ハラスメントがあった」と認めてもらうのは非常に困難です。
証拠の重要性
録音データやメール、詳細な日記といった証拠がないと、「言った、言わない」の水掛け論になり、あなたの主張が退けられてしまう可能性があります。
これが、多くの被害者が泣き寝入りせざるを得ない、最も大きな壁の一つです。
時間・費用・精神的な負担が大きい
裁判などの法的手続きは、あなたが想像している以上に、心身ともに大きなエネルギーを消耗します。
乗り越えるべきハードル
- 時間
⇒ 解決までに、数ヶ月から数年単位の時間がかかることも珍しくありません - 費用
⇒ 弁護士費用など、少なくない金銭的負担が発生します
(法テラスなどの援助制度もあります) - 精神的負担
⇒ 相手方からの反論や、辛い経験を何度も繰り返し証言することは、大きな精神的ストレスとなります
🌈 ちょっと一息
法律という盾は、とても強力ですが、同時にとても重いものでもあります。その盾を手に取るかどうかは、あなたの心と体の状態を最優先に、慎重に判断する必要があります
まとめ
ここまで、法律という盾の「可能性」と「限界」について見てきました。
- 可能性
⇒ 会社の責任を問い、慰謝料を請求し、労災補償を受けることができる - 限界
⇒ 加害者を直接罰することは難しく、証拠が必要で、多大な負担がかかる
大切なのは、法律を「唯一絶対の解決策」と過信するのではなく、あなたの状況を改善するための「数ある選択肢の一つ」として捉えることです。
法律の存在を知っておくだけで、「いざとなれば、社会が定めたルールを味方につけられる」という安心感は、あなたの心を強く支えてくれるお守りになります。
法律という盾の存在を知った上で、次に大切なのは「あなたは一人ではない」という事実を知り、孤独感を和らげることです。
次の「データで見る実態 ―苦しんでいるのはあなた一人じゃない―」のページで、その心強い現実を一緒に確認していきましょう。