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会社の「健康診断結果」はどこまで開示されるのか

会社の「健康診断結果」はどこまで開示されるのか
会社の「健康診断結果」はどこまで開示されるのか

会社の健康診断を受けた後

 「この結果、もしかして部長も見ているの?」

と不安になったことはありませんか? 特に、体重や腹囲などの身体データや、人に知られたくない既往歴(病歴)が社内で共有されているとしたら、気まずいどころの話ではありません。

結論から言えば、会社には法律上、健康診断結果を把握し管理する「義務」がありますが、そこには明確なルールと例外が存在します。

この記事では、法律(労働安全衛生法)に基づき、会社が管理する義務を持つ情報の範囲と、決して知られてはいけない情報の境界線について、分かりやすく解説します。

【原則】会社には「結果を知る義務」がある

驚くかもしれませんが、定期健康診断(法定健診)の結果については、原則として会社は社員の同意なしに全て把握することができます。 これには明確な法的根拠があります。

安全配慮義務を果たすため

労働安全衛生法第66条の3において、会社は健康診断の結果を「記録」し、保存する義務を負っています。

会社には、従業員が健康に働けるよう配慮する安全配慮義務があり、そのためには従業員の健康状態(数値)を把握しておく必要があるからです。

つまり、健康診断結果はプライベートな秘密ではなく、労務管理上必要な「秘密性の高い業務情報」として扱われるのが基本ルールなんです。

産業医による就業判定

会社は結果を受け取った後、医師(産業医)の意見を聴き、必要であれば就業上の措置(残業禁止や配置転換など)を講じなければなりません。

このプロセスを回すためにも、人事労務担当者が就業上必要な範囲で健診結果を確認することは、法的に正当な行為とされています。

🔑 ワンポイント
再検査の通知が会社に届くのも、会社が「再検査を受診させるよう指導する義務」を負っているためです

ただし「誰が見るか」には制限がある(プライバシー)

「会社が見る」といっても、社内の誰もが自由にあなたの体重や血液検査の結果を閲覧できるわけではありません。 個人情報保護の観点から、情報の取扱者は業務上必要な人間に厳格に限定されます。

上司に伝わるのは「数値」ではなく「判定」

一般的に、情報の閲覧範囲は以下のように区別されて運用されます。

  • 人事労務担当者・産業医
    ⇒ 事務処理や健康管理のため、詳細な数値や所見まで確認する権限がある
  • 直属の上司(現場管理者)
    ⇒ 数値そのものではなく、「就業に制限が必要か否か」という就業判定区分のみが伝えられるのが一般的

「就業判定区分」とは

上司に伝えられるべき情報は、あくまで「仕事の割り当て」に必要な情報に限られます。 具体的には、産業医が判断した以下の3つの区分です。

  1. 通常勤務可
    ⇒ 健康上の問題はない、あるいは業務に支障はない
  2. 就業制限
    ⇒ 残業禁止、出張禁止、高所作業禁止など、働き方に制限が必要
  3. 要休業
    ⇒ 療養のため、休暇を取らせる必要がある

このように、まともな企業であれば、上司が部下のγ-GTPの数値を話題にするようなことは起こり得ません。

ただし、人事と現場が近い小規模事業所などでは、社長や上司が実務を兼ねている場合もあり、情報管理が曖昧になりがちな点には注意が必要です。

【例外】「ストレスチェック」と「オプション検査」の壁

ここが最も重要なポイントです。 身体の健康診断(法定項目)とは異なり、以下の情報はプライバシー保護のレベルが格段に上がります。

ストレスチェックは「同意」が必須

年に一度実施される「ストレスチェック」の結果は、身体検査とは扱いが全く異なります。 本人の同意がない限り、会社(人事や上司)は結果を一切見ることができません

これは、メンタルヘルス情報が人事評価に悪用されたり、不利益な取り扱いにつながったりするリスク(偏見)を防ぐための強力な法的措置です。

高ストレス判定が出ても、あなたが申し出ない限り、会社には「実施した」という事実しか伝わりません。

オプション検査の結果

人間ドックなどで、法定項目(身長、体重、血圧、血液検査など)以外に追加したオプション検査(がん検診、婦人科検診、遺伝子検査など)の結果も、原則として会社に報告する義務はありません。

これらは業務遂行との関連性が薄く、高度なプライバシー情報だからです。

🌈 ちょっと一息
会社指定のフォーマットで人間ドック結果を全提出する場合、オプション部分を黒塗りして提出することも可能です

まとめ:ルールを知れば、過度な不安は消える

「全部筒抜け」でもなければ「完全非公開」でもないのが、健康診断のリアルです。 会社は安全を守るために必要な情報を持ちますが、それを興味本位で閲覧したり、乱用したりすることは許されません。

この記事のポイント

  • 定期健康診断(法定項目)の結果は、会社に把握・保存する義務がある
  • 直属の上司には、数値ではなく「就業判定(働けるかどうか)」のみ伝えるのが原則
  • ストレスチェックの結果は、本人の同意なしに会社へ開示されることはない

仕組みを正しく理解していれば、「見られているかも」という漠然とした不安は解消されます。

もし、上司があなたの体重や病歴を飲み会のネタにするような不適切な情報漏洩(アウティング)があれば、それは明らかなルール違反です。堂々と人事部や相談窓口へ異議を申し立ててください。

→ 関連ページ:『法律という名の盾。あなたを守る法律の限界と可能性』

→ 関連ブログ:『産業医面談で「会社に伝わる情報」と「伝わらない情報」』

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