前のページでは、統計データから、
ハラスメントが特定の個人に起きる特殊な問題ではなく、社会に広く存在する普遍的な課題であることを確認しました。
では、なぜハラスメントは特定の職場で発生し、深刻化してしまうのでしょうか。
多くの場合、その原因は加害者個人の資質だけに留まらず、ハラスメントを容認、あるいは誘発してしまう組織の風土や文化、すなわち「職場環境」そのものに根ざしています。
この記事では、どのような職場環境がハラスメントの温床となりやすいのか、その具体的な特徴を客観的な視点から解説します。
ご自身の職場環境を振り返り、状況を客観視するための一つの「物差し」としてご活用ください。
―― このページはこんな3本柱でお届けします ――
🚀 コミュニケーションの実際 / 🎯 評価とプレッシャー / 🔥 組織の構造体質
コミュニケーションの在り方
職場の健全性は、そこに流れるコミュニケーションの質に大きく左右されます。
意見や反論が許されないトップダウン体質
ハラスメントが起きやすい職場の特徴として、コミュニケーションが一方通行であることが挙げられます。
上司の決定や指示に対して、部下が質問や意見を述べることが困難な雰囲気があります。
具体的な兆候
- 会議で発言するのは、役職者など特定の人ばかりである
- 上司の意見に、誰も異論を唱えようとしない
- 「何か質問は?」と聞かれても、全員が沈黙している
このような環境では、従業員は対人関係のリスクを避けるために沈黙を選ぶようになり、権力を持つ者の理不尽な言動が、誰にも是正されることなくまかり通ってしまいます。
🔑 ワンポイント
健全な職場では「何が言われたか(内容)」が重視されますが、不健全な職場では「誰が言ったか(立場)」がすべてを決定します
陰口や噂話が横行している
直接的でオープンなコミュニケーションが機能していない職場では、不満や情報が陰口や噂話といった、不健全な形で流通しがちです。
このような職場では、従業員間の信頼関係が損なわれ、常に疑心暗鬼な雰囲気が生まれます。これは、特定の個人をターゲットにした仲間外れや無視といった、モラルハラスメントが発生しやすい土壌と言えます。
🌈 ちょっと一息
活発な意見交換は、組織の健全性を示すバロメーターです。もし、誰もが上司の顔色をうかがい、発言をためらう空気が常態化しているなら、それは組織のコミュニケーション機能に問題がある兆候かもしれません
評価とプレッシャーの仕組み
従業員を管理し、成果を促すための仕組みが、逆に従業員を追い詰め、ハラスメントを生み出す原因となることがあります。
失敗が許されない「減点主義」の文化
挑戦には失敗がつきものですが、ハラスメントが起きやすい職場では、一つのミスに対して、人格否定を伴うような過剰な叱責が行われる傾向があります。
失敗への許容度が低い
このような「減点主義」の職場では、従業員は常にミスの責任を追及される恐怖に晒されます。その結果、以下のような問題が発生しやすくなります。
- ミスの隠蔽が常態化する
- 叱責を恐れるあまり、小さなミスが報告されず、後々大きなトラブルに発展します
- 責任のなすりつけ合いが始まる
- 自分の評価を守るために、ミスを他人のせいにする「犯人探し」が横行します
- 誰も新しい挑戦をしなくなる
- リスクを取ることを避け、前例踏襲の指示待ち人間ばかりになってしまいます
🔑 ワンポイント
社員を信頼し、成長の機会として失敗を許容するのではなく、常に疑い、罰することで管理しようとする文化は、ハラスメントの強力な培養器です
長時間労働が常態化している
「残業が多い」「休暇を取りづらい」といった職場も、ハラスメントが発生しやすい典型的な環境です。
慢性的な長時間労働は、従業員の心身の余裕を奪います。
疲弊し、ストレスが溜まった状態では、他者への配慮が欠け、攻撃的な言動が出やすくなることが分かっています。
また、「自分はこんなに頑張っているのに」という思いが、時短勤務者など、自分より労働時間が短い従業員への不当な攻撃につながることもあります。
🌈 ちょっと一息
適度なプレッシャーは成長を促しますが、過度なプレッシャーと常態化した長時間労働は、従業員の心身の余裕を奪い、攻撃的な言動の引き金となり得ます。組織のパフォーマンス管理のあり方が、ハラスメントのリスクに直結します
組織の構造的な体質
たとえハラスメントが発生しても、それを自浄する仕組みがなければ、問題は放置され、さらに深刻化の一途をたどります。
ハラスメント相談窓口が機能していない
パワハラ防止法により、企業には相談窓口の設置が義務付けられていますが、形だけ存在していても、実際には機能していないケースが少なくありません。
機能不全のサイン
- 相談しても「君にも悪いところがあったんじゃないか」と諭される
- 相談内容が、いつの間にか当事者や他の従業員に漏れている
- 結局、「会社としては何もしない」という結論になる
このような状態では、従業員は「相談しても無駄だ」と諦めてしまい、本来セーフティーネットであるべき窓口が、むしろ従業員の絶望感を深める原因となります。
🔑 ワンポイント
問題を見て見ぬふりをする組織は、加害者に「何をしても許される」という誤ったメッセージを送り、ハラスメント行為を事実上、容認しているのと同じです
特定の社員への「特別扱い」が横行している
「あの人は会社の功労者だから」「あの人の営業成績はトップだから」
このような理由で、特定の社員が起こすハラスメント行為が、社内で黙認されていることはありませんか。
このような「特別扱い」は、企業としての公平性を著しく欠き、「ルールよりも個人の力関係が優先される」という、極めて危険なシグナルを組織全体に発信することになります。
🌈 ちょっと一息
コンプライアンスや従業員の尊厳よりも、目先の利益や特定の個人を守ることを優先する組織体質は、ハラスメント問題が解決されない根本的な原因の一つです
まとめ
ここまで、ハラスメントが蔓延する職場の特徴を、3つの側面から客観的に見てきました。
- コミュニケーションの問題⇒ 意見が言えず、陰口が横行している
- 評価とプレッシャーの問題⇒ 失敗が許されず、常に追い詰められている
- 組織構造の問題⇒ 相談窓口が機能せず、問題が隠蔽される
もし、あなたの職場にこれらの特徴が多く見られる場合、それはハラスメントが発生しやすいリスクを抱えた環境である可能性を示唆しています。
そのような環境は、働く人の心身に様々なサインとして影響を及ぼすことがあります。次のページでは、「見逃さないで。心と体が発するSOSサイン」について、具体的に見ていきましょう。