3-1-1 休職・退職時に使える、あなたの権利「公的支援」完全ガイド

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ハラスメントが原因で、明日から会社に行けない、

あるいは、もう会社を辞めるしかない。そう決断したとき、心の苦しみに加えて、あなたの肩に重くのしかかってくるのが「お金」の不安です。

 「休んでいる間の生活費はどうしよう」
 「次の仕事が見つかるまで、どうやって暮らしていけばいいのか」

この経済的な不安は、あなたの心をさらに追い詰め、冷静な判断を鈍らせてしまいます。しかし、どうか安心してください。

今の日本には、このような困難な状況に陥った労働者を支えるための、非常に手厚い公的なセーフティーネット(社会保障制度)が存在します。

これらは、特別な人だけが受けられるものではなく、これまで真面目に保険料を納めてきたあなたに、当然与えられた「権利」です。

この記事では、休職・退職時にあなたの生活を支える、最も代表的で強力な2つの公的支援制度について、その内容から申請方法まで、分かりやすく解説します。

―― このページはこんな3本柱でお届けします ――

🚀 傷病手当金 / 🎯 雇用保険(失業手当) / 🔥 申請手続きと注意点

休職中の生活を支える「傷病手当金」

まずは、会社に在籍したまま、病気やケガの療養のために仕事を休む場合に、あなたの生活を支えてくれる制度です。

傷病手当金とは?

「傷病手当金」とは、あなたが加入している健康保険から、休業中の生活を保障するために支給されるお金のことです。

ハラスメントが原因のうつ病や適応障害といった精神疾患も、医師が「仕事ができない状態(労務不能)」と判断すれば、支給の対象となります。

支給されるための4つの条件

傷病手当金を受け取るためには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。

  1. 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
    • 業務上や通勤中のケガは、次に解説する「労災保険」の対象となります
  2. 仕事に就くことができないこと(労務不能)
    • これは、あなた自身の判断ではなく、医師の診断に基づいて判断されます
  3. 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
    • 連続した3日間の「待期期間」を終えた後、4日目以降の休んだ日に対して支給されます
  4. 休業した期間について給与の支払いがないこと
    • 会社から給与が支払われている間は、支給されません。ただし、給与額が傷病手当金の額より少ない場合は、その差額が支給されます

🔑 ワンポイント
傷病手当金は、ハラスメントが原因のうつ病など、精神的な不調で休職する場合も対象となります。在職中に受けられる、非常に重要な生活保障制度です

いくら、いつまで貰えるのか?

  • 支給される金額
    • おおよそ、あなたの給料(標準報酬月額)の3分の2が支給されます
  • 支給される期間
    • 支給を開始した日から、通算して最長1年6ヶ月間受け取ることができます

🌈 ちょっと一息
傷病手当金は、あなたが経済的な心配をすることなく、安心して治療と療養に専念するために用意された制度です。この権利を最大限に活用し、まずは心と体を回復させることを最優先に考えましょう

退職後の生活を支える「雇用保険(失業手当)」

次に、ハラスメントが原因で、やむを得ず会社を退職した場合に、あなたの生活と再就職を支えてくれる制度です。

雇用保険(失業手当)とは?

一般的に「失業保険」や「失業手当」と呼ばれるもので、退職してから次の仕事を見つけるまでの一定期間、国から給付金が支給される制度です。

ハラスメントによる退職は「特定理由離職者」

通常、自己都合で退職した場合は、給付金を受け取るまでに2ヶ月程度の「給付制限」という待機期間があります。

しかし、ハラスメントという正当な理由のある自己都合退職と認められた場合は、「特定理由離職者」として扱われ、この給付制限が免除されるなど、一般の自己都合退職者よりも手厚い給付を受けることができます。

🔑 ワンポイント
ハラスメントが原因で退職した場合、その事実をハローワークで客観的な証拠と共に申告することで、失業手当の受給において有利な条件が適用される可能性があります

特定理由離職者として認定されるメリット

ハローワークで、ハラスメントの事実を証明する客観的な証拠(詳しくは後述)を提示し、「特定理由離職者」として認定されると、以下のようなメリットがあります。

  • 給付制限期間(2ヶ月)がなくなる
    • 申請後、7日間の待期期間のみで、すぐに給付が開始されます。これにより、退職後の収入がない期間を大幅に短縮できます。
  • 国民健康保険料の軽減措置が受けられる
    • 自治体によっては、国民健康保険料が大幅に減額される制度の対象となります。
  • 給付日数が長くなる場合がある
    • 年齢や被保険者期間によっては、一般の自己都合退職者よりも、給付を受けられる合計日数が長くなることがあります。

🌈 ちょっと一息
ハラスメントによる退職は、あなたの意思に反した、やむを得ない退職です。この制度は、そうしたあなたの状況を考慮し、セーフティーネットをより早く、より手厚く提供してくれるものです

申請手続きの基本的な流れと注意点

これらの制度を利用するためには、あなた自身で申請手続きを行う必要があります。

傷病手当金の申請手順

傷病手当金の申請は、あなたが加入している健康保険組合(協会けんぽ、または会社の組合健保)に対して行います。

手続きの基本的な流れ

  1. 申請用紙を入手する
    ⇒ 健康保険組合のウェブサイトからダウンロードするか、会社の担当部署に依頼して取り寄せます
  2. あなたが記入する欄を埋める
  3. 医師に「労務不能」であることの証明を記入してもらう
    ⇒ 通院している心療内科などの主治医に依頼します(文書作成料がかかります)
  4. 会社に、休業期間中の給与支払い状況を証明してもらう
  5. 完成した申請書を、健康保険組合に郵送する

🔑 ワンポイント
手続きには、医師や会社の証明が必要な書類が多くあります。一人で抱え込まず、それぞれの担当窓口に分からないことは遠慮なく質問しながら進めましょう

雇用保険の申請手順

雇用保険の申請は、あなたの住所を管轄するハローワークで行います。

手続きの基本的な流れ

  1. 会社から「離職票」を受け取る
    • 退職後、10日~2週間程度で自宅に郵送されてくるのが一般的です
  2. ハローワークで求職の申し込みと、受給資格の決定を受ける
    • 離職票、本人確認書類、写真などを持参して手続きを行います
  3. ハラスメントが理由であることを申告する
    • この際、退職理由を裏付ける客観的な証拠(Step1で記録したものなど)を提示できると、特定理由離職者として認定されやすくなります
  4. 雇用保険説明会に参加する
  5. 失業の認定日にハローワークへ行き、求職活動の状況を報告する

🌈 ちょっと一息
これらの手続きは、あなたの新しい生活を始めるための、具体的で前向きな第一歩です。少し複雑に感じるかもしれませんが、一つ一つ着実にこなしていくことで、未来への道が開けていきます

まとめ

ここまで、休職・退職時にあなたの生活を支える、2つの強力な公的支援制度について見てきました。

  • 休職中の生活には
    • 傷病手当金(給料の約2/3が、最長1年6ヶ月)
  • 退職後の生活には
    • 雇用保険(失業手当)(ハラスメントが理由なら、給付が早いなどの優遇あり)

これらの制度は、あなたが安心して心と体を休め、次のステップに進むための経済的な土台となります。まずは、こうしたセーフティーネットがあることを知り、お金の不安を少しでも和らげることが大切です。

その上で、次のページでは、公的支援とは別の角度からあなたを守る、さらに強力な制度「正当な権利『労災申請』で心と生活を守るための全手順」について、詳しく解説していきます。