「在職中のまま」加害者を訴えるための準備と費用

ハラスメントは許せない、でも会社を辞めたら生活できない…
在職中のまま加害者を訴えたいと考えたとき、
「準備が会社にバレたら?」
「訴訟費用はどうやって捻出する?」
という恐怖と不安は当然のものです。
この記事では、あなたの生活基盤(収入)を守りながら加害者の責任を追及するために、在職中だからこそできる証拠集め、現実的な費用計画、そして「会社バレ」を防ぐための最大のリスク管理術について具体的に解説します。
最大の武器は「在職中」であること
ハラスメントの証拠は、会社を辞めてしまうとアクセスが困難になります。
在職中であることの最大のメリットは、継続的なハラスメントの記録(録音・日記)に加え、社内システム上の証拠へのアクセスが(まだ)可能である点です。
具体的には以下の証拠です
- 業務メール
⇒ 加害者や会社が関与した、理不尽な指示や恫喝が記録されたメール本文 - ビジネスチャット
⇒ SlackやTeamsなどでの暴言や、意図的な情報共有からの除外の記録 - 勤怠(タイムカード)記録
⇒ 過度な残業や、不自然な早退強要のデータ - 人事評価シート
⇒ 不当に低い評価がつけられた客観的な証拠
これらの証拠は、退職後には「不正アクセス」とみなされるリスクがあり、入手が極めて困難になります。
なお、営業秘密や顧客個人情報の無断持出しは不正競争防止法・個人情報保護法の問題となり得ます。権限内・必要最小限で、方法は弁護士と相談してください。
🔑 ワンポイント
訴訟用の証拠保全は有効ですが、営業秘密等や顧客の個人情報等を無断で持ち出すことは法的リスクがあります。権限内の閲覧・出力に限定し、営業秘密等/個人情報等の取り扱いを含め適法な手順を弁護士と相談しましょう。
最大の壁「訴訟費用」の現実的な捻出法
在職中のまま訴訟をためらう第二の理由は「費用」です。
「在職中で収入があるから、法テラス(民事法律扶助制度)は使えないのでは?」
と考える方が多いかもしれません。
しかし、法テラスの資力基準(利用できる収入や資産の上限)は、あなたが世帯主か、同居家族がいるか、家賃や住宅ローンを支払っているかなどで変動します。
例えば、単身者で東京などの一級地に住んでいる場合、手取り月収が20万0200円以下(家賃などを支払っている場合は最大5万3000円を加算可能)であれば利用できる可能性があります。
(出典:法テラス公式。基準は地域・世帯で変動)
「収入がある=使えない」
と自己判断せず、最新の基準表で確認する価値はあります。
もし法テラスの利用が難しい場合でも、諦める必要はありません。
- 弁護士事務所の「無料相談」を活用する
⇒ 証拠が揃っていれば、訴訟の見通しや必要な費用総額を教えてもらえます - 「着手金無料(成功報酬型)」の事務所を探す
⇒ 初期費用がかからない代わりに、獲得した賠償金から支払う報酬の料率が通常より高めに設定されている可能性があります - 毎月の給与から「積立」を計画する
⇒ 在職中(収入がある)からこそ取れる、最も堅実な方法です
収入がある今だからこそ立てられる、現実的な資金計画の方法を弁護士と共に探ることが重要です。
会社にバレる?「在職中訴訟」の最大リスク管理術
在職中に訴訟準備を進める上で最大の恐怖は「会社バレ」とそれに伴う報復(不利益な扱い)でしょう。 このリスク管理は、在職中訴訟の最重要事項です。
🌈 ちょっと一息
まず大前提として、弁護士には依頼者のプライバシーを守る厳格な「守秘義務」があります。あなたが許可するまで、弁護士が依頼者の意に反して会社や加害者に連絡(内容証明郵便の送付など)をすることは絶対にありません。
その上で、あなたが徹底すべき防衛策は以下の通りです。
- 会社のPCやネットワークを絶対に使わない
⇒ 弁護士とのメール、証拠の整理、関連情報の検索などは、すべて個人所有のスマートフォンや自宅のPCで行ってください - 証拠集めを悟られない
⇒ 当事者としての会話録音は原則違法ではないとされますが、手段・場所・目的により違法/違法評価の余地もあります。運用は弁護士と相談してください - 社内の人間に相談しない
⇒ たとえ信頼できる同僚であっても、法的手続きの準備段階で話すことは漏洩リスクを高めます
訴える対象で「バレる」タイミングは違う
在職中訴訟には、主に2つのパターンがあります。
- 加害者「個人」のみを訴える場合
⇒ この場合、訴状は加害者個人の自宅に送達されます(民事訴訟)。加害者が会社に報告しない限り、会社が即座に知る可能性は低いです。ただし、加害者が動揺して会社に相談する可能性は考慮すべきです - 「会社」も訴える場合
⇒ 会社には、労働者の生命・身体等(=心身の健康を含む)の安全への配慮を求める「安全配慮義務」(労働契約法5条)があります。加害者のハラスメントを放置したとして、この義務違反や「使用者責任」を問う場合です。 この場合、訴状は通常会社本店の代表者宛に送達されるため、確実に会社に知られます
どちらの戦略があなたの状況にとって最適か(生活を守りながら戦えるか)は、弁護士の高度な法的判断が必要です。
まとめ:生活と尊厳、両方を守るために
今回は、会社に在籍したままハラスメント加害者を訴えるための「準備」「費用」「リスク管理」について解説しました。
この記事のポイント
- 在職中であることは、社内システム上の証拠(メール、勤怠記録など)を安全に保全できる最大のメリットがある
- 訴訟費用は、法テラスの利用可能性の再確認(具体例あり)や、「着手金無料」の事務所、給与からの積立などで計画的に準備できる
- 最大の「会社バレ」リスクは、会社のPCを使わないことや、訴える対象(個人か会社か)を弁護士と戦略的に決めることで管理が可能
※本記事は一般的な解説であり、実際に訴訟が可能かどうか、最適な進め方は、事案の詳細・証拠状況・法的アドバイスにより異なります。準備を検討される場合は専門家の相談をおすすめします。
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