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LGBTQ+当事者への「SOGIハラ」対策の最新動向

LGBTQ+当事者への「SOGIハラ」対策の最新動向
LGBTQ+当事者への「SOGIハラ」対策の最新動向

SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)

に関するハラスメントは、かつては個人のモラルやマナーの問題として、軽く扱われがちでした。 しかし2025年現在、その状況は劇的に変化しています。

近年の最高裁判決や法改正の議論を経て、SOGIハラへの対応不備は、企業にとって安全配慮義務違反損害賠償請求等の対象となり得る重大な法的リスクになっているんです。

この記事では、SOGIハラ対策の「今」を知るための最新動向と、企業や個人がアップデートしておくべき「新しい常識」について解説します。

アウティングは「命に関わるハラスメント」という認識

SOGIハラの中でも、近年最も警戒レベルが高まっているのがアウティング(本人の同意なく、性的指向や性自認を第三者に暴露すること)です。

かつての一橋大学での事件(アウティング被害を受けた学生が転落死した痛ましい事件)以降、アウティングは単なるプライバシー侵害を超え、被害者の尊厳を深く傷つけ、最悪の場合は命を奪う精神的な暴力であるという認識が、司法・行政レベルで強く共有されつつあります。

パワハラ防止法での明確な位置づけ

現在、パワハラ防止法の指針においても、アウティングは「個の侵害」に該当する典型的なパワーハラスメントになり得る行為として明確に示されています。

具体的には、以下のような行為がアウティングに該当し、法的責任を問われる可能性があります。

  • 同僚からカミングアウトされた内容を、面白がって他の同僚に言いふらす
  • 「〇〇さんってオネエっぽいよね」と、本人の性的指向を勝手に推測して噂する
  • 上司が「良かれと思って」、本人の同意を得ずに人事担当者や他の上司に情報を共有する

「知らなかった」では済まされない企業責任

企業には、従業員のSOGIに関する情報を厳格に管理する義務があります。 特に注意が必要なのは、3つ目の例にあるような「良かれと思って」行われるアウティングです。

🔑 ワンポイント
相談を受けた上司や担当者が、本人の明確な同意なく情報を共有することは、たとえ善意であってもアウティングになります

企業は、「アウティングは絶対に許さない」という方針を明確にし、相談窓口担当者への専門的な研修を行うなど、具体的な防止措置を講じることが求められています。

判例が示す「トランスジェンダーへの職場対応」の基準

経済産業省の職員がトイレ使用制限の撤廃を求めた訴訟における最高裁判決(2023年7月)は、企業の対応に大きな転換を迫るものとなりました。

この判決以降、企業はトランスジェンダー当事者に対して、個別具体的で実質的な配慮を行うことが、安全配慮義務などの一内容として、より明確に求められるようになったと解されています。

最高裁が認めた「重要な法的利益」

この判決で示された最も重要な基準は、当事者が自認する性別に基づいて社会生活を送る利益は、法的に保護されるべき重要な利益であるという点です。

裁判所は、「他の職員が戸惑うかもしれない」といった抽象的な理由や感覚的な懸念だけで、当事者の利益を一律に制限することは違法(裁量権の逸脱・濫用)であると判断しました。

具体的な環境調整と「合理的配慮」

最新のトレンドでは、トイレや更衣室の利用制限を見直すだけでなく、以下のような具体的な環境調整が、企業の合理的配慮として求められつつあります。

  • 通称名の使用
    ⇒ 業務上で自認する性に基づく名前の使用を認める
  • 健康診断の配慮
    ⇒ 個別実施や、着替え不要な健診着の導入、多目的更衣室の確保
  • 服装規定の見直し
    ⇒ 「男性はスーツ、女性は制服」といった性別による区別の撤廃
  • 治療休暇の整備
    ⇒ 性別適合手術やホルモン治療のための休暇取得への理解

企業は「前例がないから」と拒否するのではなく、当事者との対話を通じて「どうすれば実現できるか」を模索する姿勢が不可欠です。

進む企業の対策「同性パートナーシップ」と「相談窓口」

最新の企業動向として、SOGIハラを「防止する」だけでなく、当事者が働きやすい環境を作るためのポジティブな制度導入が進んでいます。

制度による包摂:同性パートナーへの福利厚生

代表的なのが、就業規則の改定による同性パートナーへの福利厚生適用です。 自治体のパートナーシップ宣誓受領証などを提示することで、法律婚の配偶者と同様に、以下の制度対象とする企業が増えています。

  • 結婚祝い金(パートナーシップ登録祝い金)の支給
  • 結婚休暇(特別休暇)の付与
  • 家族手当、家賃補助の適用
  • 育児休業、介護休業の取得権利

相談体制の整備と「アライ」の可視化

ハラスメント相談窓口においても、SOGI特有の悩み(誰にカミングアウトするか、更衣室の問題など)に対応できる体制整備が進んでいます。

社内の担当者では対応が難しい場合に備え、外部の専門機関(NPOや弁護士)と連携する企業も着実に増えてきました。

🌈 ちょっと一息
「アライ(Ally)」と呼ばれる理解・支援者であることを表明するステッカーをPCに貼るなど、当事者が孤立しないための可視化された活動も広がっています

これらは単なる福利厚生ではなく、SOGIハラを生まないための土壌づくりとして機能しており、企業の採用力向上(ダイバーシティ経営)にも繋がっています。

まとめ:多様性を認めることは、組織の「生存戦略」

SOGIハラ対策は、もはや一部の当事者のためだけの特別な措置ではありません。 それは、すべての従業員が心理的安全性を感じ、能力を最大限に発揮できる職場を作るための必須条件です。

この記事のポイント

  • アウティングは命に関わる問題であり、パワハラ指針で該当行為として明示されている
  • 最高裁判決により、抽象的な懸念だけを理由に権利を制限することは、原則として許されないことが明確になった
  • 同性パートナーへの福利厚生適用など、制度面での包摂が進んでいる

最新の動向が如実に示しているのは、無知や無関心こそが最大のリスクであるという事実です。「自分には関係ない」と思っているその意識が、無自覚な加害を生み、大切な仲間を傷つけてしまう可能性があります。

企業も働く個人も、常にアップデートされた人権感覚を持つことが求められています。 もし職場でSOGIに関するモヤモヤを感じたら、一人で抱え込まず、専門の窓口や信頼できる支援者に相談してください。

→ 関連ページ:『セクハラ、モラハラ…心を蝕む攻撃の種類と実例』

→ 関連ブログ:『「SOGIハラ」って何?知らずに加害者になる前に』

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