「働き方改革」で加速する副業ハラスメントへの対策

国を挙げての「働き方改革」により
多くの企業で副業が解禁されました。
しかし、現場では
「副業するなら本業もおろそかにするな」
といった精神論を超え、人事評価を不当に下げる、雑務を押し付けるといった副業ハラスメント(通称:フクハラ)が加速しています。
解禁されたはずが、なぜか会社に居づらくなる。 この矛盾した現象は、制度と現場の意識のギャップから生まれています。
この記事では、近年手口が巧妙化している最新のハラスメント動向と、国のガイドラインに基づいた会社が干渉できる範囲(法的な境界線)について解説します。
最新トレンドは「見えない不利益取扱い」
かつてのような「副業禁止!」という単純な命令は、制度上難しくなりました。 代わりに増えているのが、表面上は認めているふりをして、裏で従業員を追い詰める巧妙な手口です。
「健康管理」を名目にした収入減
最も多いのが、「長時間労働の抑制」という正当な名目を悪用したケースです。
上司から「副業で疲れているんじゃないか?」と一方的に決めつけられ、本業での残業を禁止されたり、責任あるプロジェクトから外されたりします。
これは、本人の健康を守るためではなく、副業による収入増を本業の収入減で相殺させようとする、経済的な嫌がらせである場合があります。
根拠なき「評価下げ」
また、本業で小さなミスをした際に、「副業にうつつを抜かしているからだ」と過剰に叱責されるケースも目立ちます。
他の社員なら見過ごされるミスでも、副業をしている社員だけ厳しく追及され、結果として人事評価やボーナス査定を不当に下げられます。
これらは「見えない不利益取扱い」であり、立証が難しいハラスメントの一種です。
国のガイドラインが示す「介入の4要件」
会社はどこまで副業に口を出せるのでしょうか。
感情論で押し切られないためには、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を知っておく必要があります。
原則は「自由」である
まず大前提として、勤務時間外の時間は労働者のものです。 ガイドラインでも、副業・兼業は原則として自由であると明記されています。
このガイドラインは行政指針であり、直接の法律ではありませんが、裁判などではこの考え方が重視されるため、企業には指針に沿った運用が求められます。
会社が制限できる「4つの例外」
ただし、無制限に許されるわけではありません。 会社が就業規則などで副業を禁止・制限できるのは、以下の4つの事情がある場合に限られます。
- 労務提供上の支障がある場合
⇒ 本業がおろそかになるほど長時間労働をしている - 企業秘密が漏洩する場合
⇒ 競合他社へ技術や顧客リストを持ち出すリスクがある - 競業避止義務に違反する場合
⇒ 会社の利益を害するライバル企業で働く - 誠実義務に違反する場合
⇒ 会社の名誉や信用を傷つける活動をする
逆に言えば、これらに該当しない(本業もきちんとこなし、競合でもない)限り、会社が副業を理由に処分を行うことは権利の濫用にあたる可能性が高いんです。
🌈 ちょっと一息
制限が有効とされるには、合理的な理由、必要性、そして処分が過度でないこと(最小侵襲性)が問われます。「気に入らないから」は理由になりません
巧妙なハラスメントに勝つ「実績防衛策」
こうした「見えないハラスメント」に対抗するには、会社側に「制限する理由(4要件)」を与えないことが重要です。 そのための最強の武器は、客観的な実績です。
業務記録を詳細に残す
副業を開始する際は(あるいはハラスメントを感じ始めたら)、本業の業務量、達成した成果、労働時間の記録を、これまで以上に詳細に残してください。
「副業のせいでパフォーマンスが落ちた」
という言いがかりに対し、「数字(実績)は落ちていない」と反論できる証拠になります。
「報告義務」は果たしておく
トラブルになった際、「会社に黙ってやっていた」という事実は、労働者側の不利に働きます。 就業規則に副業の届出制や許可制がある場合は、所定の手続きを踏んでおきましょう。
その上で不当な扱いを受けたのであれば、それは完全に会社の責任となります。
🔑 ワンポイント
届出をする際は、業務内容が「競業(ライバル)」に当たらないことを明確に説明できるように準備しておきましょう
まとめ:自由な働き方には「自己防衛」がセット
働き方改革は、会社への依存を減らすチャンスですが、同時に会社からの風当たりが強くなるリスクも孕んでいます。 制度があるからと安心せず、自分の身を守る準備が必要です。
この記事のポイント
- 昨今のハラスメントは「評価下げ」や「仕事外し」など巧妙化している
- 会社が副業を制限できるのは「秘密漏洩」や「本業への支障」など4要件に限られる
- 「本業はおろそかにしていない」と証明できる客観的な実績記録が防御盾になる
もし不当な扱いを受けたと感じたら、①業務実績を保存する、②就業規則を確認して届け出る、③それでも解決しなければ労働基準監督署や弁護士に相談する、という順序で動いてください。
会社が介入できる法的な限界を知り、本業の実績という盾を持って、自由な働き方を守り抜きましょう。 あなたのキャリアは、会社のものではなく、あなた自身のものです。
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