相談ゼロは危険信号? 企業の公表データの「裏」を読む技術

最近、会社のホームページや採用サイト
あるいは「統合報告書」などで、ハラスメントの相談件数や発生件数を公表する会社が増えています。これは
「人的資本経営」
という考え方が広まり、社内の実情を透明化することが求められているからです。
求職者や、転職を考えているあなたにとって、こうしたデータは会社選びの重要な判断材料になります。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
「相談件数が少ない会社=ハラスメントがない良い会社」
だと思い込んでいませんか?
この記事では、公表された数字の表面だけを見て「ホワイト企業だ」と誤解し、入社してから後悔しないために、専門家の知見を基に、データの「裏側」を読み解く技術をわかりやすく解説します。
「相談件数0件」が示す本当の意味
もしあなたが検討している会社のレポートに
「昨年度のハラスメント相談件数:0件」
と書かれていたら、どう感じるでしょうか。「平和な会社なんだな」と安心するかもしれません。
しかし、専門家の視点では、これはむしろ「危険信号(レッドフラグ)」と捉えることが多いんです。
「ない」のではなく「言えない」
数百人以上の従業員がいる会社で、1年間に人間関係のトラブルやハラスメントの種が一つも生まれないことは、実務上の知見や監査・評価の現場では極めて稀なケースとされています。
それなのに数字が「0」である場合、以下の状況が疑われます。
- 相談窓口が存在しない、または周知されていない
- 「相談したら報復される」という恐怖があり、誰も声を上げられない
- 相談しても「揉み消される」と従業員が諦めている
つまり、「0件」という数字は、ハラスメントが存在しないことの証明ではなく、
「心理的安全性(話しやすさ)が欠如している」
ことを示唆している可能性が高いと、多くの専門家や投資家は見ています。
🔑 ワンポイント
数字の「0」は、問題がないことではなく、問題を吸い上げる仕組みが機能していないことを示唆しています。
「件数増加」はむしろ健全な証拠
逆に、前年度に比べて相談件数が急増している会社を見ると、
「ブラック化しているのでは?」
と不安になるかもしれません。しかし、これも逆の視点が必要です。
浄化作用が働いているサイン
相談件数が増えるということは、会社がハラスメント対策に本腰を入れ始めた証拠であることが多いです。実際、消費者庁や金融庁の資料においても、内部通報制度が機能し始めた初期段階では、「件数の増加は健全な姿」であるとされています。
- 研修を行い、何がハラスメントか従業員が理解した
- 相談窓口が信頼され始め、隠れていた声が届くようになった
- 会社が「膿(うみ)」を出そうとしている
このように、件数の増加は「組織の自浄作用」が働き始めたポジティブな変化と捉えることができます。重要なのは、件数の多さそのものではなく、会社がその数字を隠さずに公表しているという「誠実な姿勢」です。
数字の奥にある「本気度」を見抜く指標
では、私たちはどの数字に注目すべきなのでしょうか。単なる発生件数ではなく、その後の「プロセス」に関するデータを探してみてください。
見るべきは「解決率」と「防止策」
ESG評価(企業の持続可能性評価)が高い会社などは、相談があったこと自体を恥とはせず、どう対処したかを誇ります。以下の記載があるかチェックしましょう。
- 解決数・解決率
⇒ 相談に対して何件対応を完了したか - 研修実施回数と参加率
⇒ 全従業員に継続的に教育を行っているか - 懲戒処分の公表
⇒ 加害者に厳正に対処した実績があるか(個人名は伏せて)
これらの具体的なアクションが開示されている会社は、ハラスメントに対して「見て見ぬふり」をしない、自浄能力の高い組織であると判断できます。
🌈 ちょっと一息
採用面接で「御社の相談窓口の利用状況はどうですか?」と逆質問してみるのも手です。誠実な会社なら、課題も含めて答えてくれるはずです。
まとめ
公開されているデータは、会社の「体温」を知るための重要な手がかりです。しかし、きれいな数字だけが並んでいる資料は、実態を隠すための化粧かもしれません。
数字が「0」であることに安堵するのではなく、泥臭い現実と向き合い、改善しようともがいている会社の姿勢こそが、働く人を守る本当の盾になります。
転職や就職活動では、ぜひ「数字の裏」にあるストーリーを読み取ってください。
この記事のポイント
- 「相談件数0件」は、相談しにくい環境や隠蔽体質を示唆する警戒すべきサイン
- 件数の増加は、窓口が機能し始め、組織の自浄作用が働いている証拠
- 発生数よりも「解決数」や「研修実績」に、会社の本当の本気度が現れる
完璧な会社など存在しません。大切なのは、問題が起きた時に「なかったこと」にせず、あなたを守るために動いてくれる会社かどうかです。その真実を見抜く目を持ちましょう。
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