東京都以外の「カスハラ防止条例」拡大地域の動向

「カスハラ条例=東京の話」だと思っていませんか?
ニュースでは東京都の条例成立が大きく報じられましたが、実はそれと並行して、地方自治体レベルでも独自の動きが活発化しています。
ただし、全国一律に広がっているわけではありません。 条例がある地域とない地域が混在する、いわばパッチワークのような状態で、対応の難易度が上がっているのが現状です。
この記事では、東京都と同じく2025年(令和7年)4月1日に条例を施行した北海道や群馬県、そして全国初の試みを行った三重県桑名市などの最新動向と、地域差がある中で企業が取るべき現実的な対応策について解説します。
西日本・地方都市で加速する「独自条例」の動き
東京都の条例施行に合わせて、地方でも同時多発的に条例が動き出しました。 特に注目すべきは、以下の地域です。
2025年4月1日に一斉施行された地域
東京都だけでなく、北海道(北海道カスタマーハラスメント防止条例)や群馬県(群馬県カスタマーハラスメント防止条例)でも、同日に条例が施行されました。
これらの条例は、観光業や第一次産業などそれぞれの地域事情を背景に、「カスハラは許さない」という地域の基本姿勢を明確にしたものです。
桑名市(三重県)の「氏名公表」プロセス
市町村レベルで全国的な注目を集めているのが、三重県桑名市の「桑名市カスタマーハラスメント防止条例」です。
同市も2025年4月1日に施行されましたが、特筆すべきは「悪質な行為者の氏名を公表できる」という踏み込んだ規定です。
ただし、市長の独断で公表されるわけではありません。 条例に基づき、以下のような厳格なプロセスが定められています。
- 専門家等で構成される審査会(附属機関)への諮問・答申
- 市長による認定と、期限を定めた警告
- 正当な理由なく警告に従わない場合に初めて氏名を公表
これは「罰則はないが、社会的制裁はある」という強い抑止力として機能しています。
なぜ「国の法律」より先に「条例」ができるのか
本来なら、国が法律で全国一律に規制すべき問題に見えます。
国レベルでも「労働施策総合推進法」の改正などが議論されていますが、現時点では検討段階であり、なぜ自治体が先行して条例を作るのでしょうか。
三重県(県全体)や他地域の検討状況
先行する桑名市(市レベル)とは異なり、三重県(県レベル)では、まだ条例化に向けた検討・調整の段階にあります。 その他、埼玉県や愛知県でも以下のような議論が進んでいます。
- 埼玉県
⇒ 虐待禁止条例の議論の中で、介護現場などでのカスハラ対策についても議論の対象となっている - 愛知県
⇒ 労働組合等からの要望を受け、有識者会議等で条例化に向けた検討が始まっている
スピード感と独自規範
国の法律で「カスハラ禁止」を一律に定めるには、刑法との兼ね合いなど慎重な議論が必要です。 対して自治体の条例は、地域の事情に合わせて素早く規範(ルール)を打ち出せる強みがあります。
そのため、現在はどうしても地域によって対応に差が出る過渡期とならざるを得ないのです。
全国展開企業が直面する「ルールのパッチワーク化」
この状況下で最も頭を悩ませているのは、全国に支店や店舗を持つ企業です。
「東京や北海道の店舗では条例違反と言えるが、隣の県の店舗では条例がない」といった状況では、現場の対応がブレてしまい、従業員を守りきれません。
コンプライアンス実務の最適解
厚生労働省の対策マニュアルや最新の企業法務の考え方では、以下のような対応が合理的であるとされています。
- 最高基準に合わせる
⇒ 条例がない地域に合わせるのではなく、最も規制が厳しい地域(東京や北海道、桑名市など)の基準に合わせて、全国一律の社内マニュアルを作成する - 周知・教育の徹底
⇒ 「地域によって対応を変える」のではなく、「わが社は全国どこでもカスハラを許さない」という毅然とした姿勢を示す
🔑 ワンポイント
低い基準に合わせて対応した場合、SNS等で拡散された際に「この会社は従業員を守らない」と炎上するリスクが高まります
企業の対応としては、地域の条例の有無にかかわらず、安全配慮義務の観点から最高レベルの対策を講じることが、結果としてリスク管理の最適解となります。
まとめ:日本全体が変わる「過渡期」に備える
カスハラ防止の流れは、一過性のブームではなく、日本社会の「接客の常識」が不可逆的に変わる大きな転換点です。 現在は地域ごとの対応にバラツキがあるパッチワークの状態ですが、いずれ全国的な議論へと発展していくでしょう。
この記事のポイント
- 2025年4月1日、東京に加え北海道・群馬県・桑名市でも条例が施行された
- 桑名市では、審査会への諮問を経て、警告に従わない悪質な行為者の氏名公表が可能
- 全国展開企業は、地域差に惑わされず、最も厳しい条例を基準に統一ルールを作ることが推奨される
動向を注視し、後手ではなく先手必勝で対策を講じることが、従業員を守る最強の盾となります。
法律ができてから動くのではなく、今のうちから「自社はカスハラを許さない」という姿勢を社内外に示すことが、人材確保の面でも大きなプラスに働きます。
「お客様は神様」の時代は終わり、対等な人間関係に基づく新しいビジネス環境が、今まさに作られようとしています。 この変化を前向きに捉え、従業員が安心して働ける環境づくりを急ぎましょう。
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