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録音の切り取りはNG? デジタル証拠の「信用性」の鉄則

録音の切り取りはNG? デジタル証拠の「信用性」の鉄則
録音の切り取りはNG? デジタル証拠の「信用性」の鉄則

ハラスメントの被害に遭った際

多くの人がまず行うのが「LINEのスクリーンショット」や「スマホでの録音」による記録です。

これらは自分を守るための大切な記録ですが、いざ裁判や交渉の場に出すと、

 「これだけでは証拠として弱い」
 「加工された可能性がある」

と指摘されてしまうケースが増えていることをご存知でしょうか。

デジタル技術や画像加工アプリが進化した現代において、裁判所はデジタル証拠の信用性をより慎重に判断するようになっています。

この記事では、せっかく集めた記録を無駄にせず、信頼される証拠として残すために知っておくべき、裁判所が重視するルールと、リスクを回避する正しい保存方法について解説します。

なぜ「スクショ」だけでは不十分なのか

手軽なスクリーンショット(スクショ)ですが、裁判所や交渉の場においては、それ単体では十分な証明になりにくい側面があります。 そこには、デジタルデータ特有の弱点が存在するからです。

「文脈」が見えないリスク

一部だけを切り取られた画像は、前後の文脈(コンテキスト)を証明できません。

例えば、相手の暴言だけをスクショしても、その前にこちらが別の発言をしていたり、前後の会話で和解していたりする可能性を否定できないからです。

裁判官や第三者は、

 「都合の良い部分だけを切り取ったのではないか?」

という視点で証拠を見ます。 そのため、点(スクショ)ではなく、(会話の流れ全体)を保存することが重要になります。

加工・偽造の容易さ

現在では、チャット画面を模倣して偽造できるアプリや、画像を加工する技術が一般化しています。 そのため、「画像データ」だけでは、それが本物であることの証明として不十分とされるケースがあります。

これを防ぐためには、スクショだけでなく、以下の対策を組み合わせることが有効です。

  • トーク履歴のバックアップ
    ⇒ LINE等の機能を使って、テキストデータとして会話全体を保存する
  • 動画でのスクロール撮影
    ⇒ 画面をスクロールさせながら動画撮影し、前後のつながりを連続的に記録する (※通知等で予期せぬプライバシー情報が映り込まないよう、機内モード等での撮影を推奨します)
  • 端末の現物保存
    ⇒ 可能であれば、機種変更前の端末自体を保管しておく

良かれと思った「編集」が重大な問題になる

「録音データが2時間もあって長すぎるから、該当部分だけカットして提出しよう」

相手(弁護士や裁判官)の手間を減らそうとする親切心のつもりで行ったこの作業が、法的には改ざんの疑いを生んでしまいます。

デジタル証拠の命は「原本性」

デジタルデータにおいて最も重要なのは、

 「作成された時点から変更が加えられていないこと」

つまり原本性(オリジナリティ)です。

一度でも編集ソフトで切り取ったり、加工したりしてしまうと、そのデータが「元の音声と同じである」という証明が難しくなります。 相手側から「都合よく編集された音声だ」と指摘された場合、反論が難しくなるリスクがあります。

正しい提出方法は「原本+反訳」

長い録音データを証拠として使う場合の正解は、以下の通りです。

  1. 原本はそのまま
    ⇒ データの切り取りや音質調整は一切行わず、生データのまま保存する
  2. 反訳(書き起こし)書をつける
    ⇒ 録音内容を文字に起こした「反訳書」を作成し、「〇分〇秒付近に当該発言あり」と注釈をつける

こうすることで、データの信用性を保ったまま、確認する側の負担も減らすことができます。

🔑 ワンポイント
重要部分を示したい場合は、データを加工するのではなく、再生時間を指定したメモを添えるのが鉄則です

機種変更・アプリ削除の前にすべきこと

証拠が入ったスマホを「機種変更」したり、嫌な思い出を消したくて「アプリを削除」したりする前に、やっておかなければならないことがあります。

データの移行ミスで証拠が消滅するリスクを防ぐため、バックアップは必須です。

データの「二重化」でリスク分散

スマートフォンの中だけにデータがある状態は非常に危険です。 水没や紛失で全てを失う可能性があるため、必ず複数の場所に保存してください。

  • 物理メディア
    ⇒ USBメモリやパソコンのハードディスクにコピーする(最も確実な方法)
  • クラウドストレージ
    ⇒ GoogleドライブやiCloudなどにアップロードする

クラウド利用時の注意点

クラウドは便利ですが、万能ではありません。 サービス規約違反によるアカウント停止や、サービス自体の終了、システム障害等により、ある日突然データにアクセスできなくなるリスクがあります。

クラウドだけに頼らず、必ず手元にも物理的なデータを残しておくことが、証拠を守るための生命線となります。

🌈 ちょっと一息
第三者(弁護士など)へデータを預けることも、改ざんしていないことの証明(存在証明)として有効な手段の一つです

まとめ:正しい保存が、あなたの「真実」を証明する

デジタル証拠は、扱い方さえ間違えなければ、あなたの受けた被害を客観的に証明する有力な材料になります。 「撮って終わり」ではなく、「正しく残す」こと。

この記事のポイント

  • スクショは文脈が見えないため、前後の会話も含めて保存する
  • 録音データの切り取り編集は、改ざんと疑われるリスクがあるため厳禁
  • スマホの中だけでなく、外部媒体にもバックアップを取り二重化する

そのひと手間が、いざという時にあなたを守る確かな支えとなります。 集めた記録を大切に保管し、落ち着いて次のステップ(相談や交渉)へと進んでください。

あなたの「真実」は、正しい知識によって守られます。 焦らず、確実に証拠を保全していきましょう。

→ 関連ページ:『「言った言わない」を封じる、鉄壁の記録術』

→ 関連ブログ:『録音って違法?ハラスメント証拠の「よくある勘違い」』

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