3-2-1 「休む」と決める勇気。休職手続きと有意義な過ごし方

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「もう、心も体も限界だ。でも、休んでしまったら…」

ハラスメントによる過酷なストレスは、あなたの心身を着実に蝕んでいきます。頭では「休むべきだ」と分かっていても、「周りに迷惑をかけてしまう」「キャリアに傷がつくのではないか」という責任感や不安が、その決断を鈍らせてしまうのは、無理もありません。

しかし、ここであなたに伝えたいのは、「休む」と決めることは、決して「逃げ」や「負け」ではないということです。

それは、これ以上自分を傷つけないために、そして、未来のあなたが再び健康に、自分らしく働くために、あなた自身が下す、最も勇敢で賢明な「決断」です。

この記事では、休職を決意するための心構えから、円滑に進めるための具体的な手続き、そして、あなたの心と体を確実に回復させるための有意義な休職期間の過ごし方まで、あなたが安心して「休む」ための全てを、順を追って解説します。

―― このページはこんな3本柱でお届けします ――

🚀 「休む」と決める心構え / 🎯 円滑な休職手続き / 🔥 回復につながる過ごし方

「休む」と決めるための心構え

手続きを始める前に、まずあなた自身の心の中にある「休むことへの罪悪感」という、最も大きな壁を取り払うことから始めましょう。

「休む=逃げ、負け」という思い込みを捨てる

まず、この考え方を意識的に手放しましょう。走り続けるマラソンランナーが、給水ポイントで立ち止まって水を飲むのは、最後まで走り切るために不可欠な行為です。

それと同じように、今のあなたにとって「休む」ことは、人生という長いレースを走り抜くための、極めて重要な戦略的判断だと思ってください。

🔑 ワンポイント
休職は、あなたのキャリアの「中断」ではなく、より長く、健康に働き続けるための「必要なメンテナンス期間」です

あなたの代わりはいても、あなたの人生の代わりはいない

「自分が休んだら、仕事が回らなくなる」という責任感は、とても尊いものです。しかし、あなたの健康以上に優先されるべき仕事など、この世に存在しません

会社の仕事は、あなたが休んでも、他の誰かが代わりを務めてくれます。しかし、あなたの心と体の健康、そしてあなたの人生そのものは、誰も代わることはできません。

今、あなたが守るべき最も大切なものは何か、優先順位を冷静に考えてみてください。

医師の診断を「客観的なお墨付き」として受け入れる

それでも「自分が甘えているだけでは」という考えが頭から離れないのなら、専門家である医師の診断を、客観的な事実として受け入れましょう

医師が「休養が必要」と判断したのであれば、それはあなたの心身が、医学的に見て、休息を必要とする限界状態にあるという「客観的な証拠」です。それは、あなたの気のせいでも、甘えでもありません。

🌈 ちょっと一息
自分に「休んでいいよ」と許可を出してあげることは、あなたにしかできない、最も大切な自己肯定の第一歩です。あなたは、十分に頑張りました。今のあなたには休む権利があります

円滑に進める休職の手続きと流れ

休職を決意したら、次は具体的な手続きを進めていきます。手順を知っておけば、不安は大きく軽減されます。

ステップ1:心療内科・精神科を受診し、「診断書」をもらう

まず、心療内科や精神科を受診し、現在の辛い状況を正直に医師に話しましょう。そして、休職が必要であると診断された場合は、会社に提出するための「診断書」を発行してもらいます。

診断書に記載される主な内容

  • 病名(例:適応障害、うつ病など)
  • 休養を必要とする期間(例:まずは1ヶ月間など)
  • 「上記の通り診断し、労務不能と考えられる」といった医師の所見

ステップ2:会社(直属の上司・人事部)に申し出る

診断書を基に、会社に休職を申し出ます。誰に、どう伝えるかがポイントです。

誰に伝えるべきか

  • 原則は、直属の上司です
  • ただし、その上司がハラスメントの加害者である場合は、その上司を飛ばして、人事部や、さらにその上の役職者に直接相談するのが、最も安全で適切な対応です

どう伝えるべきか

感情的にハラスメントの事実を訴えるのではなく、医師の診断という客観的な事実を基に、淡々と伝えることを心がけましょう。

「医師の診断により、〇月〇日から〇ヶ月間の休養が必要となりました。つきましては、診断書を提出いたしますので、休職の手続きをお願いできますでしょうか」 このように、必要な情報だけを冷静に伝えるのがポイントです。

🔑 ワンポイント
休職を申し出る際に、ハラスメントの詳細を根掘り葉掘り話す義務はありません。医師の診断書という客観的な事実を基に、事務的に手続きを進めることに集中しましょう

ステップ3:必要な事務手続きを行う

休職の申し出が受理されたら、会社の人事担当者の指示に従い、必要な事務手続きを進めます。

主な事務手続き

  • 休職届の提出
    ⇒ 会社のフォーマットに従って、必要事項を記入し提出します
  • 傷病手当金の申請
    ⇒ 前のページで解説した、休職中の生活を支えるための公的支援です。申請には会社の証明が必要になるため、人事担当者に協力をお願いしましょう
  • 業務の引き継ぎ
    ⇒ 無理のない範囲で、後任者への引き継ぎ資料を作成したり、説明したりします

🌈 ちょっと一息
手続きは、一つ一つ着実にこなしていけば、必ず終わります。今は、複雑なことを考えすぎず、目の前の事務作業を一つずつ片付けていくことだけに集中しましょう

回復につながる休職期間の有意義な過ごし方

無事に休職期間に入ったら、その時間をどう過ごすかが、あなたの回復にとって非常に重要になります。

急性期(最初の1~2ヶ月):とにかく何もしない、を徹底する

休職に入った直後は、「何か有意義なことをしなければ」という焦りを、まず手放すことが最も大切です。

心と体のバッテリーを充電する期間

長期間のストレスで、あなたの心と体のバッテリーは完全に空っぽの状態です。この時期の目標は、何もしない、考えない、ただただ休むことに尽きます。

  • 十分な睡眠をとる
  • 栄養のあるものを食べる
  • 仕事のことは一切考えない
  • 人との交流も、負担なら無理にする必要はない

回復期(2~3ヶ月目以降):少しずつ活動を再開する

心身が少し休まり、気力が湧いてきたら、無理のない範囲で、心にエネルギーを与えてくれるような活動を少しずつ再開してみましょう。

活動再開のヒント

  • 軽い運動
    ⇒ 朝の散歩や、軽いストレッチなど、心地よいと感じる範囲で体を動かす
  • 五感を刺激する
    ⇒ 好きな音楽を聴く、良い香りのアロマを焚く、景色の良い場所に行くなど
  • 簡単な趣味に没頭する
    ⇒ 読書や映画鑑賞、料理など、集中できて、かつ達成感が得られるような活動

復職準備期(復職1ヶ月前頃):生活リズムを整える

復職が見えてきたら、社会復帰に向けた準備を始めます。

体と頭を慣らしていく

  • 生活リズムを平日モードに戻す
    • 決まった時間に起き、日中は図書館やカフェなどで過ごすなど、会社に通っていた頃の生活リズムに体を慣らしていきます
  • 復職プランについて会社と相談する
    • 必要であれば、復職後の業務内容や、時短勤務などの配慮について、人事担当者や上司と事前に相談しておきましょう

🔑 ワンポイント
焦りは回復の最大の敵です。「何か有意義なことをしなければ」というプレッシャーを与えず、何もしない自分を許すことが、回復への一番の近道です

🌈 ちょっと一息
休職期間は、あなたという大切な存在を、未来のためにしっかりとメンテナンスする貴重な時間です。誰にも邪魔されず、自分自身を労わることだけに、この時間を使ってあげてください

まとめ

ここまで、「休む」と決める勇気、具体的な休職手続き、そして有意義な休職期間の過ごし方について見てきました。

  • 心構え
    ⇒ 休むことは「逃げ」ではなく、未来のための「戦略」であると捉える
  • 手続き
    ⇒ 医師の診断書を基に、冷静かつ事務的に進める
  • 過ごし方
    ⇒ 「何もしない」時期を経て、焦らず、少しずつ活動を再開する

ハラスメントで傷ついた心と体を回復させるには、絶対的な休養の時間が必要不可欠です。休職という選択肢は、その時間を確保するための、国や会社に認められた正当な権利です。

しかし、状況によっては、休職ではなく、「辞める」という決断が、あなたにとって最善の道である場合もあります。

次のページでは、「「辞める」は逃げじゃない。円満退職への道筋と準備」について、詳しく解説していきます。