2-3-2 あなたの要求を冷静に、かつ明確に伝える技術

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前のページで、あなたの目的別に

最適な相談先が明確になりました。しかし、いざ相談の場に臨むと、強い怒りや悲しみ、恐怖といった感情が込み上げ、思っていたことの半分も伝えられなかった、というケースは少なくありません。

あなたの受けた被害の深刻さを第三者に正確に理解してもらい、あなたが望む解決へと事態を動かすためには、何を伝えるか(内容)と同じくらい、どう伝えるか(技術)が重要になります。

感情的にただ苦しみを訴えるだけでは、相手に「ヒステリックな人だ」という誤った印象を与えかねず、あなたの主張の信頼性を損なってしまう危険さえあります。

この記事では、あなたの正当な要求を、相手に冷静かつ明確に伝え、真摯な対応を引き出すための、具体的なコミュニケーション技術について解説します。

―― このページはこんな3本柱でお届けします ――

🚀 相談前の「準備」 / 🎯 相談当日の「伝え方」 / 🔥 絶対にやってはいけないこと

相談の成果は「準備」で9割決まる

相談の場で、冷静かつ論理的に話すための最大の秘訣は、徹底した事前準備にあります。準備不足のまま臨むと、頭が真っ白になったり、話がまとまらなくなったりする原因となります。

事実関係を時系列で整理する

まず、これまでに記録してきたメモを元に、ハラスメントの事実関係を時系列に沿って年表のように書き出すことをお勧めします。

ハラスメント年表の作成

  • いつ、誰に、何をされたか
    ⇒ この3点を軸に、起きた出来事を箇条書きで整理します
  • 関連する証拠を紐付ける
    ⇒ 各出来事の横に、それを裏付ける証拠(メールの日付、録音データのファイル名など)をメモしておきます

この作業を行うことで、あなた自身の頭の中が整理され、相談相手にも、問題の全体像と継続性を非常に分かりやすく伝えることができます。

🔑 ワンポイント
相談の目的は、単に辛かった話を聞いてもらうことではありません。相談は、あなたの「要求」を実現するための第一歩です。ゴールを明確にすることが、全ての基本となります

あなたの「要求」を明確にする

相談を通じて、あなた自身が「どうなりたいのか」を、あらかじめ明確にしておくことが極めて重要です。

要求の具体例

あなたの望むゴールは、どのレベルにあるでしょうか。

  • レベル1:謝罪
    ⇒ 加害者本人からの、ハラスメント行為に対する明確な謝罪を求める
  • レベル2:再発防止
    ⇒ 会社に対して、ハラスメント研修の実施や、再発防止策の策定と全社への周知を求める
  • レベル3:加害者の異動・処分
    ⇒ 加害者を、自分とは関わりのない部署へ異動させることや、就業規則に基づいた懲戒処分を求める
  • レベル4:金銭的な補償
    ⇒ ハラスメントによって受けた精神的苦痛に対する慰謝料や、治療にかかった費用の支払いを求める

これらの要求は、一つだけでなく、複数を組み合わせることも可能です。

🌈 ちょっと一息
事前準備は、相談への不安を、自信に変えるためのプロセスです。しっかりと準備をすれば「自分はやるべきことをやった」という落ち着きが生まれ、当日も冷静さを保ちやすくなります

相談当日に意識すべき「伝え方」の技術

入念な準備ができたら、次はいよいよ実践です。相談の場で、あなたの主張を効果的に伝えるための3つの技術をご紹介します。

「事実」と「感情」を分けて話す

これは、記録の際にも重要となるポイントですが、口頭で伝える際にも非常に有効です。

構造的な話し方

  1. まず、客観的な「事実」を伝える
    ⇒ 「〇月〇日、会議室で、〇〇部長から『使えない』と言われました」
  2. 次に、それに対する「感情」と「影響」を伝える
    ⇒ 「その結果、私は非常に屈辱的に感じ、仕事への自信を失いました。その夜は眠れませんでした」

このように、事実と感情をセットにして、かつ分離して話すことで、相手は状況を客観的に理解しつつ、あなたの苦しみにも共感しやすくなります。

🔑 ワンポイント
相手を非難する「あなた」を主語にした話し方は、相手を防御的にさせます。「私は」を主語にすることで、あなたの経験を、誰も否定できない事実として伝えることができます

主語を「私」にして話す(アイ・メッセージ)

相手を非難するような言い方は、相手を頑なにし、話し合いをこじらせる原因となります。主語を「私」に置き換えるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。

伝え方の比較

  • 悪い例(YOUメッセージ)
    • 「あなたは、いつも私を無視するじゃないですか!」
  • 良い例(Iメッセージ)
    • 「私は、あなたに挨拶をしても返していただけない時、とても悲しく、疎外されているように感じます」

YOUメッセージが相手への「非難」であるのに対し、Iメッセージは、あなたの「感情」や「状況」を伝える表現です。相手は、あなたの感情という事実を、否定することができません。

感情的にならず、冷静な口調を保つ

強い怒りや悲しみで、声が震えたり、涙が出そうになったりするのは、当然のことです。しかし、可能な限り冷静なトーンで、淡々と話すことを心がけましょう。

感情的な訴えよりも、冷静な口調で語られる事実の方が、かえってその場の異常さや、あなたの苦しみの深刻さを際立たせます

もし、どうしても感情が抑えきれなくなった場合は、「申し訳ありません。少し、気持ちを落ち着かせる時間をいただけますか」と正直に伝え、一呼吸置くことも大切です。

🌈 ちょっと一息
冷静に、理路整然と話すあなたの姿は、相手に対して「この人は感情的に騒いでいるのではない。真剣に、事実に基づいて問題を訴えているのだ」という、強い説得力を与えます

相談の場で、絶対にやってはいけないこと

最後に、あなたの立場を不利にしないために、相談の場で避けるべき行動について解説します。

嘘や誇張を交える

自分の主張を有利にしたいという気持ちから、事実を少しだけ大げさに話したり、小さな嘘を混ぜたりすることは、絶対にやめてください

万が一、その嘘や誇張が相手に見抜かれた場合、あなたの主張全体の信頼性が失われてしまいます。「あの人の言っていることは、本当だろうか?」という疑念を抱かれた時点で、交渉は著しく不利になります。

🔑 ワンポイント
相談の場では、あなたの誠実さが試されます。相手の土俵に乗らず、常に自分のペースを守ることが、最終的に良い結果につながります

相手の挑発に乗る

特に、加害者本人も同席するような場では、相手があなたを意図的に挑発し、感情的な反応を引き出そうとしてくることがあります。

「そんなことで傷つくなんて、メンタルが弱いんじゃないか?」 「君の方にも、原因があったんじゃないのか?」

このような言葉にカッとなっても、決して言い返してはいけません。相手の挑発に乗った時点で、あなたの負けです。深呼吸をし、「グレーロック」の技術を思い出し、冷静に「事実についてのみ、お話しします」と対応しましょう。

その場で安易に妥協・合意しない

会社側から、何らかの和解案や解決策が提示されることがあるかもしれません。その内容が、たとえ少し魅力的に見えたとしても、その場で即答することは絶対に避けてください

相手のペースに乗せられ、プレッシャーの中で下した判断は、後で後悔する可能性が高いです。必ず「一度持ち帰って、検討する時間をいただけますでしょうか」と伝え、一度冷静になってから、信頼できる協力者などにも相談した上で、慎重に判断しましょう。

🌈 ちょっと一息
相談の場は、あなたと相手が対等な立場で臨むべき場所です。相手のペースに巻き込まれず、常に主導権をあなた自身が握っているという意識を忘れないでください

まとめ

ここまで、あなたの要求を冷静かつ明確に伝えるための、具体的な技術について見てきました。

  • 準備⇒ 事実を時系列で整理し、あなたの「要求」を明確にする
  • 伝え方⇒ 事実と感情を分離し、「私」を主語にして、冷静に話す
  • 注意点⇒ 嘘や誇張はせず、挑発に乗らず、その場で即決しない

これらの技術は、あなたが単なる無力な被害者から、自分の権利を主張し、未来を切り開く主体的な当事者へと変わるための、非常に重要なスキルです。

しっかりと準備をし、伝えるべき技術を身につけたあなたは、いよいよ次のステップに進みます。次のページでは、「会社を動かすための、正しい報告ルートと手順」について解説していきます。