1-2 ハラスメントの正体 ―敵の姿を正確に知る―

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姿の見えない敵からの攻撃に、一人で耐えていませんか

「なぜこんな扱いを…」
「自分が何かしただろうか…」

相手の言動一つ一つに意味を探し、気づけば自分を責めてしまう

その苦しみは、攻撃の正体が分からないという恐怖と不安から来ています。しかし、敵の姿かたちが分かり、その攻撃方法に名前がついたとしたら、どうでしょうか。

漠然とした恐怖は、「対処すべき具体的な問題」に変わります。

ハラスメントの「正体」を正確に知ること。それは、闇雲に振るわれるハラスメントという名の暴力から身を守り、反撃ではなく「防御」の戦略を立てるための、最も重要な第一歩です。

ここでは3つの視点から、あなたを苦しめるものの正体を、一つ一つ明らかにしていきます。

―― このページはこんな3本柱でお届けします ――

🚀 パワハラの6つの顔 / 🎯 様々な攻撃の種類 / 🔥 法律という名の盾

1. まず知るべき、パワハラの6つの顔(タイプ)

職場におけるハラスメントの中でも、最も多くの人が悩むのがパワーハラスメント(パワハラ)です。そして、パワハラには代表的な「6つの顔」があることを国(厚生労働省)が定めています。

👉 まず知るべき、パワハラの6つの顔(タイプ) ーー 解説ページはこちら

あなたを苦しめている行為が、どれに当てはまるかを知るだけで、客観的に状況を整理できます

身体的な攻撃

殴る、蹴るといった暴力行為はもちろん、物を投げつけられるといった行為も含まれます。これは最も分かりやすいパワハラであり、場合によっては傷害罪という犯罪にもなり得ます。

精神的な攻撃

人格を否定するような暴言、同僚たちの前での執拗な叱責、脅迫、名誉棄損などがこれにあたります。「本当に使えないな」「お前がいるだけで空気が悪くなる」といった言葉は、心を深くえぐります

③ 人間関係からの切り離し

一人だけ別室に席を移されたり、会議に参加させてもらえない、仕事の情報や連絡事項を意図的に教えないといった行為です。集団の中で孤立させ、精神的に追い詰める陰湿な攻撃です。

④ 過大な要求

明らかに遂行不可能な量の仕事を押し付けたり、本人の能力や経験をはるかに超える目標を課したりすることです。「これぐらいできて当然だ」と言いながら、失敗すれば激しく叱責する、という悪循環に陥らせます

⑤ 過小な要求

専門職として採用されたのに、一日中シュレッダー作業だけをやらされたり、本人の能力や経験とかけ離れた簡単な作業しか与えられない、といったケースです。あなたの能力やキャリアを軽視し、やる気や自尊心を奪う行為です。

⑥ 個の侵害

プライベートな事柄に過度に立ち入ることを指します。恋人の有無や休日の過ごし方をしつこく聞いたり、個人のSNSを監視したりする行為も含まれます。業務の範囲を逸脱した、明確なプライバシーの侵害です。

これらの行為は、一つだけでも深刻ですが、複合的に行われることも少なくありません

🌈 ちょっと一息
あなたが受けていた苦痛に「名前」がつきました。それはもう、正体不明の恐怖ではありません。客観的に分類できる「行為」なのです

2. セクハラ、モラハラ…心を蝕む攻撃の種類と実例

ハラスメントは、パワハラだけではありません。より巧妙に、そして深く心を蝕む様々な種類の攻撃が存在します。

👉 セクハラ、モラハラ…心を蝕む攻撃の種類と実例 ーー 解説ページはこちら

セクシュアルハラスメント(セクハラ)

性的な言動によって、相手に不快感や不利益を与える行為全般を指します。立場を利用して性的な関係を強要する「対価型」と、性的な言動で職場環境を悪化させる「環境型」があります。「冗談のつもりだった」という言い訳は通用しません。

モラルハラスメント(モラハラ)

言葉や態度によって、継続的に相手の心を傷つけ、人格や尊厳をじわじわと破壊していく精神的な暴力です。無視、ため息、噂話、成果の横取りなど、一つ一つは小さく見えても、積み重なることで被害者を徹底的に追い詰めます。周囲に気づかれにくいのが特徴で、被害者は「自分が気にしすぎなのかも」と孤立しがちです。

その他のハラスメント

妊娠・出産・育児を理由とした不利益な扱いである「マタニティハラスメント」や、性別による固定観念を押し付ける「ジェンダーハラスメント」など、社会の変化と共に新たなハラスメントが問題視されています。

これらのハラスメントは、パワハラと同時に行われることも多く、被害をより深刻化させます。

🌈 ちょっと一息
「気にしすぎ」ではありません。巧妙で気づかれにくい攻撃だからこそ、あなたの「何かおかしい」という心のサインが何よりの証拠なのです

3. 法律という名の盾。あなたを守る法律の限界と可能性

ハラスメントという「敵」と対峙する上で、法律はあなたを守る**強力な「盾」**になります。

👉 法律という名の盾。あなたを守る法律の限界と可能性 ーー 解説ページはこちら

2020年に施行された「パワハラ防止法」により、企業はハラスメント対策を講じることが義務化されました。これは、働くあなたにとって非常に大きな前進です。

法律は万能ではありませんが、その内容を知っておくことは、あなたの正当な権利を守るための重要な武器になります。

法律の可能性(できること)

法律の可能性(できること)として、企業には相談窓口の設置や再発防止策を講じる義務があるため、会社の責任を問える可能性があります。

また、慰謝料請求などの民事訴訟において、ハラスメントの事実を証明できれば、精神的苦痛に対する賠償を求めることができます。

さらに、ハラスメントが原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合、労働災害(労災)として認定されれば、治療費や休業中の補償を受けられます。

法律の限界(できないこと)

一方で法律の限界(できないこと)もあります。ハラスメント行為そのものを直接罰する刑法はまだありません(暴行罪などを除く)。

また、「言った言わない」になりがちなため、客観的な証拠がなければ法的に「事実」として認めてもらうのは困難な場合があります。

そして、法的手続きはあなたの心身に大きな負担をかける可能性も理解しておく必要があります。

法律は万能ではありませんが、その存在を知っておくだけで、「泣き寝入りする必要はない」という強いお守りになります。

🌈 ちょっと一息
法律は、難しい手続きのためだけにあるのではありません。「あなたは一人で耐える必要はない」と、社会が公式に後ろ盾となってくれる証なのです

まとめ ―「知る」ことは、あなたを守る力になる

ここまで、あなたを苦しめてきたハラスメントの様々な「顔」と、それを食い止めるための社会的なルール(法律)について見てきました。

もしかしたら、あなたが受けてきた行為が、複数の種類にまたがっていたことにも気づいたのではないでしょうか。

大切なのは、漠然とした苦しみに「パワハラの精神的な攻撃だ」「これは個の侵害にあたる」と名前をつけられたことです。正体が分かれば、対処法が見えてきます。

あなたが感じていた違和感や苦痛は、決して大げさなものでも、あなたの弱さのせいでもありません。それは、社会的に「問題な行為」として明確に分類され、認知されている行為なのです。

その事実を理解できたあなたは、もう「自分が悪いのかも」と自分を責める必要はありません。

この後は、次の「データで見る実態 ―苦しんでいるのはあなた一人じゃない―」のページで、客観的な数字を見ることで、あなたの苦しみが決して特別なことではないという確信を、さらに深めていきましょう。