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「お客様からのSNS中傷」会社はどこまで守るべきか?

「お客様からのSNS中傷」会社はどこまで守るべきか?
「お客様からのSNS中傷」会社はどこまで守るべきか?

勤務先での接客対応をきっかけに

自分の名前や顔写真がX(旧Twitter)や匿名掲示板で晒され、事実無根の中傷を受けている…。

これは

 「勤務時間外」
 「個人のアカウント」

の問題だからと、会社は対応してくれないのではないか、と一人で抱え込んでいませんか? しかし、それは業務に起因する可能性が高い「カスタマーハラスメント」に該当し得ます

この記事では、会社が従業員を「お客様からのSNS中傷」からどこまで守るべきか、その法的根拠と具体的な対処法を解説します。

事例研究:SNS中傷の典型パターンと被害実態

SNSでの中傷は、匿名性の陰に隠れて行われるため、非常に悪質化しやすい特徴があります。これらはすべて、あなたの尊厳を傷つけるハラスメント行為です。

  • 個人名を特定した批判
    ⇒ 名札やレシートから個人名を特定され、「あの店員の態度は最悪だ」など、業務の範囲を超えた人格攻撃をされる
  • 盗撮画像の拡散
    ⇒ 店舗内で無断で撮影された写真や動画が、「晒し」目的でSNSに投稿され、容姿を中傷される
  • 事実無根のデマによる攻撃
    ⇒ 「あの店員に不衛生なことをされた」など、事実無根のデマを匿名掲示板に書き込まれ、住所や家族構成などの個人情報が特定されていく

これらの被害は、従業員精神的健康を深刻に害し、休職や離職につながる重大な問題です。

🔑 ワンポイント
業務に起因するSNS中傷は、会社の体制整備や対応が「求められ得る」カスハラに該当し得ます

なぜ会社は「個人のSNS」に介入すべきか?(法的根拠)

会社は、従業員が安全かつ健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」を負っています。この義務は、オフィスの中だけで終わるものではありません。

業務に起因するリスクは会社の責任

たとえSNSというデジタル空間や、勤務時間外の問題であっても、その中傷の原因が「会社の業務」にある場合、会社は安全配慮義務に基づき、従業員を守るための措置を講じる義務を問われる可能性があります。

  • 放置した場合のリスク
    ⇒ 会社が「個人の問題」としてこれを放置し、従業員が精神疾患を発症した場合、会社は安全配慮義務違反として、労働者から法的な責任を問われるリスクがあります
  • 会社の主張の限界
    ⇒ 勤務外でも、業務起因性が認められる場合は会社の対応義務が問われ得ます

🌈 ちょっと一息
勤務外でも、業務起因性が認められる場合は、会社の対応義務が問われ得ます

会社が講じるべき具体的な「防御策」と(事案に応じて)検討すべき「攻撃策」

従業員をSNS中傷から守るため、会社は「被害を未然に防ぐ防御策」と「被害が発生した後の攻撃策」の両方を講じることが望まれます。

1. 被害を未然に防ぐ「防御策」

  • 名札の匿名化(アルファベット・番号など)
    ⇒ 個人名を特定させないための基本的な対策です(ただし業態や本人識別の必要性とのバランスで判断されます)
  • SNSガイドラインの策定
    従業員が被害に遭った際の報告ルートや、会社としての対応方針を明確に定めます
  • エスカレーション窓口の設置
    ⇒ 現場の判断で対応させず、法務部や弁護士にすぐ連携できる専門の相談窓口を設置します

2. 被害発生後に会社が取るべき「攻撃策」

被害が発生した場合、証拠保全(URL・スクリーンショット)が前提となります。

  • 発信者情報開示請求の支援
    ⇒ 匿名の中傷者を特定するため、会社が主体となって、または弁護士費用を援助して「発信者情報開示請求」を支援することを検討します
  • 警察への被害届提出のサポート
    ⇒ 脅迫や名誉毀損にあたる悪質なケースでは、会社が全面的にバックアップし、警察への被害届提出や刑事告訴を支援することを検討します

まとめ

今回は、「お客様からのSNS中傷」という現代型のカスハラに対し、会社がどこまで従業員を守るべきかについて解説しました。

この記事のポイント

  • 業務に起因するSNS中傷は、勤務時間外でも会社の安全配慮義務の範囲内となり得る
  • 会社は「名札の匿名化」といった防御策を講じるべきである
  • 被害発生後は、会社は「発信者情報開示請求」や「被害届提出」の支援を検討すべきである

もしあなたが今、SNSでの中傷に苦しんでいるなら、一人で戦わないでください。それはあなたのせいではありません。証拠(スクリーンショットやURL)を保全し、すぐに会社(相談窓口や人事)に組織的な対応を要求しましょう。

※なお、カスハラ対策に関する法改正(令和7年法律第63号)の施行は、公布(2025年6月)から1年6か月以内の政令で定める日とされており、具体的な指針は順次公表予定です。

→ 関連ページ:『会社を動かすための、正しい報告ルートと手順』

→ 関連ブログ:『カスハラ対策2026年施行 取引先からのハラスメントも義務化』

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