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看護師が直面する「患者様至上主義」という名の二次被害

看護師が直面する「患者様至上主義」という名の二次被害

「患者様のおっしゃることは絶対です」

 「患者様に怒られたのは、あなたの接遇が悪いからです

医療現場でこんな言葉を聞いたことはありませんか?

以前、当サイトでは医療現場での上司から部下への指導型パワハラについて取り上げましたが、今回は全く異なる角度から医療現場の深刻な問題を見ていきます。

それは、「患者様は神様」という過度なサービス精神が、看護師への二次被害を生んでいる構造的な問題です。

患者様至上主義という名のもとで、理不尽な要求やハラスメントを受けても

 「患者様だから仕方ない」

と我慢を強いられる看護師たち。さらに深刻なのは、病院組織自体が患者クレームを恐れ、看護師を守らない姿勢を取ることで生まれる組織的な二次被害だということです。

医療の質向上と看護師の尊厳保護は決して対立するものではありません。今回は、この見過ごされがちな問題の実態と対処法について詳しく解説していきます

患者様至上主義が生む職場の歪んだ構造

現代の医療現場では、患者満足度を重視するあまり、看護師の人権が軽視される構造的な問題が生まれています。

サービス業化する医療現場の弊害

医療のサービス業化が進む中で、

 「患者様の要望は絶対」

という歪んだ価値観が浸透しています。本来、医療は専門的な知識と技術に基づいて行われるべきものですが、

 「お客様は神様」

的な発想が持ち込まれることで、医療の本質が見失われがちになっているんです。

病院経営の観点から患者満足度調査クレーム対応が重視される一方で、看護師の労働環境や精神的負担は後回しにされることが多くなっています。

カスハラ(カスタマーハラスメント)という概念が一般化した現在でも、医療現場では「患者だから特別」という考えが根強く残っています。

クレーム回避を優先する組織運営

多くの病院では、患者からのクレームを避けることが最優先事項となり、事実関係の確認よりも

 「とりあえず謝る」

姿勢が定着しています。その結果、理不尽な要求であっても看護師に我慢を強いることで問題を収束させようとする傾向が強くなっています。経営陣は

 「患者様を怒らせてはいけない」

という過度なプレッシャーを現場にかけ、看護師個人の責任として問題を処理しようとします。

これにより、本来なら組織として対処すべき問題が個人の「接遇不足」として片付けられてしまうケースが頻発しています。

🔑 ワンポイント
患者の権利を尊重することと、不当な要求に屈することは全く別の問題です。医療従事者の尊厳も同じように守られるべきです

医療専門性の軽視と権威失墜

患者様至上主義の弊害として、医療従事者の専門性が軽視される傾向も見られます。医学的根拠に基づく適切な医療行為よりも、患者の感情や要望が優先される場面が増え、医療の質そのものが低下するリスクも生まれています。

看護師の専門的判断が「患者様の希望」によって覆されたり、安全上必要な制限が「サービスが悪い」として批判されたりすることで、医療現場の秩序が乱れる事態も発生しています。

患者・家族からの直接的ハラスメント被害

患者様至上主義の環境では、患者や家族からの直接的なハラスメントが「当然のこと」として容認されがちです。

理不尽な要求と暴言の日常化

深夜の不要なナースコールから始まり、「あの看護師は気に入らないから変えろ」といった人格否定的な要求まで、理不尽な行為が日常的に行われています。

 「忙しそうにするな
 「もっと笑顔で対応しろ

といった感情労働の強要も深刻な問題となっています。

ある総合病院では、患者家族が

 「うちの母親は特別扱いしろ

と要求し、他の患者への対応中でもすぐに駆けつけることを強要。断ると

 「税金で運営されている病院のくせに

と恫喝し、病院側も「患者様の気持ちを理解して」として看護師に我慢を求めました。

セクハラ・パワハラの我慢強要

男性患者からのセクハラ発言や 不適切な身体接触についても、

 「患者だから仕方ない

として我慢を強いられるケースが多発しています。

 「病気で気が立っているから

という理由で、明らかなハラスメント行為が見過ごされる構造があります。

 「○○ちゃん、今日もかわいいね」

といったセクハラ発言から、身体を触るなどの直接的な性的ハラスメントまで、様々な被害が「患者のわがまま」として軽視されているのが現状です。

🌈 ちょっと一息
病気であることは、ハラスメント行為を正当化する理由にはなりません。患者も一般社会のルールを守る責任があります

夜勤時間帯の特殊な被害

夜勤時間帯はスタッフが少ないため、より深刻なハラスメントが発生しやすくなります。

 「眠れないから話し相手になれ

という長時間の拘束から、

 「家族の愚痴を聞け

といった業務外の要求まで、看護師個人に過度な負担をかける事例が頻発しています。

認知症や精神的な疾患を抱える患者からの暴力行為についても、「病気だから仕方ない」として適切な対策が取られず、看護師の安全が軽視されることも少なくありません。

病院組織による看護師の切り捨て構造

最も深刻なのは、患者からのハラスメントを受けた看護師が、病院組織からも見捨てられる二重の被害です。

一方的な責任転嫁と処分

患者クレームが発生すると、事実関係を十分に調査することなく、看護師側の責任として処理される事例が多数報告されています。

 「患者様が怒っているのは、あなたの対応に問題があるから

という決めつけにより、被害者である看護師が加害者扱いされる逆転現象が起きています。

ある事例では、男性患者からのセクハラを師長に相談した看護師が、

 「患者様に誤解を与える行動をした

として厳重注意を受け、担当から外されるという二次被害を受けました。ガスライティング的な手法で、被害者の認識を疑わせる組織対応も見られます。

接遇研修という名の責任回避

患者からのハラスメントが問題になると、組織的な対策を取る代わりに、看護師への「接遇研修」で問題を解決しようとする病院が多く見られます。

 「笑顔が足りない
 「言葉遣いに問題がある

といった個人の技量不足として問題をすり替え、根本的な解決を避ける姿勢です。研修費用をかけることで

 「対策を講じている

というアリバイ作りをする一方で、実際のハラスメント行為には毅然とした対応を取らない組織の姿勢が、被害の拡大を招いています。

退職強要と人材流出の悪循環

繰り返しクレームの対象となった看護師に対して、

 「患者様との相性が悪い

として配置転換や退職を促すケースも深刻化しています。経験豊富な看護師でも、理不尽なクレームを受け続けることで心身を病み、離職せざるを得ない状況に追い込まれています。

優秀な人材の流出により看護の質が低下し、残されたスタッフへの負担が増加するという負のスパイラルが形成され、職場環境がさらに悪化する悪循環が生まれています。

🔑 ワンポイント
看護師を守れない組織は、結果として患者への医療サービスの質も低下させてしまいます

まとめ

患者様至上主義という名のもとで行われている看護師への二次被害は、医療現場全体の質を低下させる深刻な問題です。患者の権利を尊重することと、不当な要求に屈することは全く別の問題であり、医療従事者の尊厳と安全も同じように守られるべきです。

真に患者のためになる医療を提供するには、看護師が安心して働ける環境が不可欠です

組織的なハラスメント対策の整備、毅然とした対応方針の確立、そして医療従事者の専門性を尊重する文化の醸成が求められています。

もしあなたが患者様至上主義による被害を受けている医療従事者なら、一人で抱え込まず、信頼できる同僚や外部の専門機関に相談してください。

あなたの専門性と尊厳は守られるべきものです。患者にも医療従事者にも優しい医療現場の実現に向けて、みんなで声を上げていきましょう。

→ 関連ページ:『見逃さないで。心と体が発するSOSサイン』

→ 関連ブログ:『医療現場での「指導」が訴訟に発展 教育とハラスメントの境』

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