「男性の育休は迷惑」という空気が生む見えない圧力

男性の育休取得率は過去最高の30.1%に達し、
2025年までに50%という政府目標も現実味を帯びてきました。
しかし数字の向上とは裏腹に、職場では
「制度はあるけど使いづらい」
という雰囲気が根強く残っています。
「君が休むと業務が回らない」
「男性に育休は必要ない」
こうした言葉に代表される見えない圧力が、男性従業員を追い詰めています。さらに2025年4月からは従業員300人超の企業で男性育休取得率の公表が義務化されるなど、制度面での整備が進む一方で、現場の意識とのギャップが深刻な問題となっています。
今回は実際に職場で起きているパタニティハラスメント(パタハラ)の事例を通して、男性の育児参加を阻む構造的な問題と対処法について詳しく見ていきます。
職場で実際に起きているパタハラの深刻な実態
厚生労働省の調査では、育休を利用しようとした男性の約4人に1人が何らかのハラスメントを経験し、そのうち約半数が育休取得を諦めているという衝撃的な結果が明らかになっています。
直接的な圧力による制止・妨害
露骨な制止発言
- 「君が休むと他の従業員に迷惑がかかる」
- 「育児は女性がするもの」という固定観念の押し付け
- 「男性の育休なんてあり得ない」といった否定的な発言
- 昇進への影響をほのめかす脅迫的な言動
手続き面での妨害
- 申請書類の「紛失」や手続きの意図的な遅延
- 代替要員確保の拒否
- 「前例がない」を理由にした申請却下
🔑 ワンポイント
直接的な制止や妨害は、明確な法律違反であり、会社側の安全配慮義務違反にも該当する可能性があります
間接的な嫌がらせと職場での孤立
陰湿な嫌がらせ
- 「イクメン気取り」「意識高い系」といった揶揄
- 同僚からの冷たい視線や「裏切り者」扱い
- 妻への批判を通じた間接的な攻撃(「奥さんに甘やかされてる」など)
育休明けの報復措置
- 重要業務からの排除や配置転換
- 評価の不当な引き下げ
- 昇進・昇格機会の剥奪
組織ぐるみの制度骨抜き
制度は整備されているものの、実際の運用では取得を困難にする仕組みが巧妙に作られているケースもあります。
- 取得期間の暗黙の上限設定(「1週間程度なら」など)
- 繁忙期の取得禁止という実質的な制限
- 代替要員なしでの業務継続前提の業務設計
🌈 ちょっと一息
組織的な制度骨抜きは、表向きは法令遵守しているように見えるため、被害者が声を上げにくい構造になっています
パタハラが生まれる社会的背景と根深い問題
パタニティハラスメントが起きる背景には、日本社会に根深く残る性別役割分担意識があります。
固定化された性別役割への固執
伝統的な価値観の残存
- 「男性は外で働き、女性が家庭を守る」という古い価値観
- 「男性の仕事が家計の柱」という経済的役割への固定観念
- 育児参加への理解不足(「手伝い程度でいい」という認識)
職場文化の問題
- 長時間労働を美徳とする文化
- 「会社への忠誠心」をプライベートの犠牲で測る傾向
- 多様な働き方への理解不足
組織マネジメントの未成熟
人手不足を理由にした取得阻止の背景には、組織運営の構造的問題があります。
- 属人化した業務フローによる代替困難性
- 余裕のない人員配置
- 業務効率化の遅れ
- チームワークよりも個人依存の組織体制
法的権利と効果的な対処法
男性の育児休業は法的に保障された権利であり、それを阻害する行為は明確な違法行為です。
法的根拠と企業の義務
2025年4月施行の新しい義務
- 従業員300人超企業での男性育休取得率公表義務
- 育休取得促進のための雇用環境整備義務の拡大
- ハラスメント防止措置の強化
既存の法的保護
- 育児・介護休業法による取得権利の保障
- 男女雇用機会均等法による不利益取扱いの禁止
- 労働基準法による報復措置の禁止
被害を受けた時の具体的対処法
証拠の収集と記録
- 発言内容の録音やメール・チャットの保存
- ハラスメントの日時・場所・関係者の詳細記録
- 業務への具体的影響の記録
相談窓口の活用
- 社内ハラスメント相談窓口への報告
- 労働基準監督署への相談
- 都道府県労働局雇用環境・均等部への申告
- 法テラスでの法的相談
🔑 ワンポイント
一人で悩まず、早期に専門窓口に相談することで、被害の拡大を防ぎ、適切な解決につなげることができます
職場環境改善に向けた具体策
管理職の意識改革
イクボス(育児に理解のある上司)の育成が重要です。
- ダイバーシティマネジメント研修の実施
- 男性育休取得者の体験談共有
- 働き方改革と生産性向上の両立事例学習
組織体制の見直し
- 業務の標準化と属人化解消
- チーム制による相互補完体制の構築
- 柔軟な勤務制度の導入
社内文化の変革
- 多様な働き方を評価する人事制度
- ワークライフバランスを重視する企業方針の明確化
- 男性の育児参加を応援する社内風土づくり
まとめ
男性の育休取得率は着実に向上していますが、職場の意識改革はまだ道半ばです。
「男性の育休は迷惑」
という空気が残る限り、真の意味での男女共同参画社会は実現できません。
法的権利として保障されている育児休業を、誰もが安心して取得できる職場環境を作ることは、企業にとっても優秀な人材の確保や生産性向上につながる重要な投資なんです。
もしあなたがパタハラを受けていると感じたら、一人で悩まず適切な窓口に相談してください。あなたの勇気ある行動が、職場全体の意識改革のきっかけとなり、後に続く人たちの道を開くことにもなります。
子育てと仕事を両立できる社会の実現に向けて、みんなで歩んでいきましょう。
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