社内通貨・ポイント制の「非人道的な罰則」

最近、あなたの会社で導入された「社内通貨」や「ポイント制度」
本来は、従業員のモチベーション向上や福利厚生を目的としたポジティブな仕組みのはずです。しかし、気づかぬうちに、それがあなたを縛り付ける「罰則ツール」になってはいませんか?
「遅刻したらポイント大幅減点」
「目標未達でポイント没収」
そんな運用がまかり通っているとしたら、それは非人道的な管理であり、新たなハラスメントの温床となり得ます。
この記事では、社内通貨やポイント制度が悪用される実態と、それがなぜパワーハラスメントや違法行為となりうるのか、その法的問題点を解説します。
「罰則」としての社内通貨・ポイント制の悪用事例
社内通貨やポイント制度が、本来の目的から逸脱し、従業員に対する罰金や懲罰のように使われるケースが増えています。以下のような運用は、ハラスメントに該当する可能性があります。
1. 罰金のようなポイント減点
- 遅刻・早退
⇒ 数分の遅刻に対し、給与計算上の減額とは別に、ペナルティとしてポイントを大幅に減点する - 業務上の軽微なミス
⇒ 誰にでも起こりうる小さなミスに対し、懲罰的にポイントを減点する - 目標未達
⇒ 個人の努力だけでは達成困難な目標に対し、未達成分をポイントで「罰金」のように扱う
2. 不合理な理由による付与基準
ポイントの付与基準が不明確であったり、上司の個人的な感情で左右されたりするケースです。
- トイレ休憩の長さ
⇒ 生理現象であるトイレ休憩の回数や時間を一律に減点対象とする運用は、業務上必要かつ相当な範囲を逸脱し、人格権侵害・ハラスメント評価のリスクが高い運用です - 上司への「貢献度」
⇒ 業務成果ではなく、上司への個人的な貢献(飲み会の参加など)でポイントを付与する
🔑 ワンポイント
本来インセンティブであるべき制度が、恐怖による支配の道具になっていませんか?
なぜ「罰則運用」はハラスメント・違法行為なのか?
社内通貨やポイント制度を罰則として運用することは、単に不快なだけでなく、パワーハラスメントや労働基準法に抵触する違法行為となる可能性があります。
1. パワーハラスメント(精神的な攻撃・過大な要求)
「優越的関係を背景」に、「業務上必要かつ相当な範囲を超え」、従業員の就業環境を害する運用(例:威圧のための公開減点、過大な要求のための恒常的減点等)は、パワーハラスメントの要件に該当し得ます。
- 精神的な攻撃
⇒ ポイント減点をちらつかせて威圧したり、見せしめのように減点結果を公開したりする - 過大な要求
⇒ 達成不可能な目標を設定し、未達成分をポイント減点で補わせるような運用
2. 労働基準法違反(賃金全額払いの原則など)
ポイント制度が実質的に賃金の一部とみなされる場合、不当な減点は労働基準法に違反する可能性があります。
- 賃金全額払いの原則(労基法24条)
⇒ 賃金全額払いの原則(労基法24条)は、賃金からの一方的控除を原則禁止します。控除できるのは「法令に定めがある場合」または「労使協定(過半数労組または過半数代表との書面協定)がある場合」などの例外に限られます - 減給の制裁制限(労基法91条)
⇒ 就業規則に懲戒としての減給を定める場合でも、労基法91条の上限(①1回の額が平均賃金1日分の半額まで、②同一賃金支払期の合計が賃金総額の10分の1まで)を超える運用は違法となり得ます。「ポイント減点」が実質的に賃金カットや賞与原資の減算に連動する設計なら、この上限が問題になります
【法的ポイント】
「社内通貨・ポイント」が金銭や賞与・手当と交換可能だったり、評価・人事・賃金決定に直接連動して実質的な減給・天引きの効果を生む設計なら、労基法24条・91条の問題が生じ得ます。
逆に「福利厚生上の任意インセンティブ」としての増減に留まり、賃金・賞与に連動しないなら直ちに違法とはいえませんが、運用が威圧的・見せしめ的であればパワハラ該当の可能性は残ります。
🌈 ちょっと一息
社内ルールであっても、法律を超える罰則は許されません。非人道的な管理は違法です
不当な罰則から自分を守るための具体的な対抗策
まずは就業規則・制度規程の条文根拠と労使協定の有無を確認し、運用実態(ポイント履歴・人事評価・給与反映の関係)を記録化した上で、社内窓口へ相談しましょう。
是正されない場合は、労働基準監督署への申告や弁護士相談を検討します。
1. 制度の運用実態を示す「証拠」を集める
会社に問題を指摘し、是正を求めるためには、客観的な証拠が不可欠です。
- 就業規則・制度規程
⇒ ポイントの付与・減点に関する正式なルールを確認します - ポイント履歴・給与明細
⇒ 不当な減点が行われた具体的な記録を保管します - 通達メール・チャット
⇒ 罰則的な運用を示唆する上司からの指示や通達を保存します - 同僚の証言
⇒ 可能であれば、他の従業員も同様の被害を受けていないか確認します
2. 社内窓口・労働基準監督署への相談
証拠が揃ったら、まずは社内の相談窓口、解決しない場合は外部機関へ相談します。
- 社内相談窓口
⇒ ハラスメント相談窓口や人事部に、具体的な証拠を示して制度の是正を求めます - 労働基準監督署
⇒ ポイント減点が実質的な賃金カットや違法な罰金にあたる場合、労働基準監督署に申告します。会社への調査や指導が行われる可能性があります
3. 法的措置(弁護士への相談)
悪質なケースや、会社が是正に応じない場合は、弁護士に相談し、法的な措置を検討します。
- 損害賠償請求
⇒ 不当な減点によって経済的な損害や精神的な苦痛を受けたとして、会社に賠償を求めることができます
まとめ
今回は、会社独自の社内通貨・ポイント制度が、非人道的な罰則として悪用される実態とその対処法について解説しました。
この記事のポイント
- 社内通貨やポイントを罰金のように減点する運用は、パワーハラスメントや労働基準法違反となる可能性がある
- 不当な罰則運用の証拠として、制度規程、ポイント履歴、上司の指示などを記録・保存することが重要である
- 証拠を基に、社内窓口や労働基準監督署に相談し、是正を求めることができる
本来従業員のためであるはずの制度が、あなたを不当に縛るものであってはなりません。制度の透明性を会社に求め、もし不当な扱いを受けていると感じたら、記録と相談であなたの権利を守りましょう。
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