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誰もが敵に見える… 「被害者バイアス」から心を解き放つ方法

誰もが敵に見える… 「被害者バイアス」から心を解き放つ方法
誰もが敵に見える… 「被害者バイアス」から心を解き放つ方法
【専門家の知見を解説】

ハラスメントの被害に遭った後、せっかく新しい環境に移ったのに「また攻撃されるのではないか」と怯えてしまうことはありませんか?

親切にしてくれる人の言葉も

 「何か裏があるんじゃないか」

と疑ってしまう…。

もしあなたが今、周囲の人が全員「敵」に見えて苦しんでいるのなら、それは決してあなたの性格が悪くなったからではありません。

この記事では、心の専門家が指摘する「被害者バイアス」という脳の仕組みについて、理解しやすいように噛み砕いて解説し、そこから抜け出すための具体的な技術をお伝えします。

あなたはもう十分に苦しみました。 そろそろ、その重たい鎧(よろい)を脱ぐ準備を始めませんか?

なぜ「全員が敵」に見えてしまうのか

ハラスメントという理不尽な攻撃を受け続けると、私たちの脳は「自分の身を守ること」を最優先にするよう変化します。

これを心理学や脳科学の視点で見ると、脳の危険探知機である「扁桃体(へんとうたい)」が、常に警報を鳴らし続けている状態(過覚醒)だと言えます。

専門家が指摘する「敵意帰属バイアス」

専門家の間では、この状態が引き起こす認知の偏りを「敵意帰属バイアス」と呼ぶことがあります。

これは、相手の曖昧な言動や中立的な行動を、

 「自分への敵意がある」

と自動的に解釈してしまう心のクセのことです。 決してあなたが悪いのではありません。 脳が

 「二度と傷つかないように」

と必死で働いている証拠なんです。

🌈 ちょっと一息
※用語についての補足 この記事で使用する「被害者バイアス」や「敵意帰属バイアス」という言葉は、心の仕組み(防衛反応)を説明するための概念であり、あなたの性格を否定したり、特定の精神疾患を断定したりするものではありません。脳が学習した「癖」のようなものだと捉えてください。

脳が誤認する「敵」のサイン

過覚醒状態にある脳は、以下のような些細な情報を「攻撃」として処理してしまいます。

  • 上司が時計を見た
    ⇒ 「私の話がつまらないと思っているんだ」と解釈する?
  • 同僚同士がヒソヒソ話をしている
    ⇒ 「私の悪口を言っているに違いない」と確信する?
  • 挨拶の反応が少し遅れた
    ⇒ 「無視された。嫌われている」と思い込む?

これらは、過去の危険な経験から学習した脳による、いわば「過剰な防衛反応」です。

その「防衛」が招く新たな孤立

自分の心を守るために作動しているはずのこのバイアスですが、皮肉なことに、長期間続くとあなた自身を新たな苦しみに追い込んでしまうことがあります。

警戒心が招く「予言の自己成就」

常に周囲を警戒し、「どうせまた裏切られる」というフィルターを通して世界を見ていると、無意識のうちにあなたの言動にも変化が表れます。

防衛的になりすぎて心を閉ざしてしまったり、逆に相手を試すような攻撃的な態度を取ってしまったりすることは珍しくありません。

🔑 ワンポイント
心理学における「予言の自己成就」

これは心理学で「予言の自己成就」と呼ばれる現象に繋がります。

あなたが「相手は敵だ」と思って接することで、相手もあなたの緊張感や敵意を感じ取ります。 その結果、相手も本当によそよそしい態度を取るようになってしまうんです。

つまり、脳内の思い込みが、現実の人間関係の悪化を引き起こしてしまうという悪循環です。 このループを断ち切るためには、脳の誤作動に気づき、意識的に修正していく技術が必要です。

「事実」と「解釈」を切り分ける技術

では、どうすればこのバイアスから心を解き放つことができるのでしょうか。

カウンセリングの現場でも用いられる認知行動療法的なアプローチとして、「事実」と「解釈」を切り分けるトレーニングが有効です。

不安や怒りを感じた瞬間、それは「事実」なのか、それともあなたの脳が作り出した「解釈」なのかを、一度立ち止まって問い直してみましょう。

認知を修正する3つのステップ

具体的な手順は以下の通りです。

  1. 感情を書き出す
    ⇒ まず、「同僚に無視された、悲しい」といった感情や思考を紙に書き出します。
  2. 事実を確認する
    ⇒ カメラに映る客観的な映像だけを抜き出します。 「私が挨拶をした」「同僚はパソコン画面を見ていて、返事をしなかった」
  3. 別の可能性(解釈)を探す
    ⇒ 「無視した(敵意)」以外の理由はないか、探偵になったつもりで探します。

「敵意」以外の可能性をシミュレーションする

ステップ3では、以下のように多様な可能性を考えてみましょう。

  • 集中していて聞こえなかっただけかも?
  • イヤホンをしていて気づかなかったかも?
  • 単に虫の居所が悪かっただけで、私とは関係ないかも?

最初は難しく感じるかもしれませんが、

 「もしかしたら、敵意ではないかもしれない」

という可能性を一つでも見つけることができれば、脳の警報は少しずつ静まっていきます。

世界はあなたが思っているほど、敵ばかりではないという事実に、少しずつ脳を慣れさせていくんです。

まとめ:重たい鎧を脱ぎ、安らぎを取り戻す

被害者バイアスは、あなたが過酷な環境を生き抜くために必要だった「盾」であり、恥じるようなことではありません。

しかし、安全な場所に逃げることができたのなら、その重たい盾はもう下ろしても大丈夫です。

もし、恐怖心や不安が強すぎて日常生活に支障が出るようであれば、無理をせず心療内科やカウンセラーなどの専門家を頼ることも検討してください。

この記事のポイント

  • 「全員が敵に見える」のは性格ではなく、脳が過剰警戒している防衛反応。
  • 敵意帰属バイアスが続くと、人間関係が悪化する「予言の自己成就」を招く恐れがある。
  • 不安を感じたら「事実」と「解釈」を分け、「敵意以外の可能性」を探す練習をする。

このトレーニングを繰り返すことで、あなたの脳は少しずつ

 「今はもう安全なんだ」

と学習し直すことができます。

あなたはもう、戦場にはいません。目の前の人は、かつての加害者とは違う人間です。少しずつ心のフィルターを外し、あなたらしい穏やかな人間関係を取り戻していきましょう。

→ 関連ページ:『次の職場で心地よく働くための「人間関係の再設定」術』

→ 関連ブログ:『「自分が悪い」 罪悪感を手放す3つの思考法』

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