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弁護士が教える「慰謝料増額」のためにすべきこと

弁護士が教える「慰謝料増額」のためにすべきこと
弁護士が教える「慰謝料増額」のためにすべきこと

「あんな酷いことをされたのに、これだけ?」

 「絶対に許せない。人生を返してほしい」

その怒りはもっともですが、裁判や示談交渉において、感情の強さだけで慰謝料が跳ね上がることはありません。 法的な賠償額は、積み上げられた事実証拠によってのみ変動します。

この記事では、専門家の知見に基づき、慰謝料算定において裁判所が重視する「増額事由(金額を上げる要素)」とは何か、そしてそれを満たすために被害者が準備すべき具体的アクションを解説します。

まず知るべき「相場の壁」と「増額のロジック」

残念ながら、日本のハラスメント慰謝料の相場は、被害者が思うほど高くはありません。 一般的なパワハラ事案(暴力なし)の場合、基本相場は50万円〜100万円程度で推移することが多いのが現実です。

しかし、これはあくまで目安に過ぎません。 自殺に追い込まれたり、重度の後遺障害が残ったりした極めて重大なケースでは、数百万〜数千万円の賠償が認められる例もあります。

逆に、証拠が不十分であれば請求棄却(ゼロ円)となるリスクも常にあります。

「慰謝料」と「逸失利益」は別物

ここで重要なのが、精神的苦痛に対する「慰謝料」とは別に、退職せざるを得なくなったことで失った将来の給与などを逸失利益として請求できる点です。

ただし、これには「ハラスメントが原因で働けなくなった」という因果関係の立証が必要です。

弁護士は、これらの損害項目をパズルのように組み合わせ、合計の賠償額を最大化するロジックを組み立てます。しかし、その「パズルのピース(証拠)」を集められるのは、現場にいたあなたしかいません

増額要素①:「行為の悪質性」を証明する

金額を左右する一つ目の大きな要素は、

 「行為そのものがどれだけ酷かったか」

です。 裁判所が増額事由として特に重視するのは、以下の2点です。

継続性(執拗さ)

「カッとなって一度だけ怒鳴った」のと、「半年間、毎日怒鳴り続けた」のでは、法的評価は全く異なります。 ハラスメントが突発的なものではなく、常習的・執拗に行われていたことを証明する必要があります。

  • 日記・メモ
    ⇒ 「いつ、どこで、何を言われたか」を時系列で記録し、頻度を可視化する
  • メール・チャット
    ⇒ 業務時間外や休日にも執拗に連絡が来ていたログを保存する

公然性(見せしめ)

個室での叱責よりも、他の従業員がいる前での叱責の方が、被害者の名誉感情を著しく傷つけるため、悪質性が高いと判断されます。

  • 場所の特定
    ⇒ 「朝礼の場で」「フロア全員に聞こえる大声で」といった状況証拠
  • 目撃者の証言
    ⇒ 同僚の陳述書などが取れれば、公然性を裏付ける強力な武器になる

🔑 ワンポイント
録音データは民事訴訟で広く証拠採用されますが、盗聴器を仕掛けるなど「著しく反社会的な手段」で収集した場合は、証拠として排除されるリスクがあります

増額要素②:「被害の甚大さ」と「会社の対応」

二つ目の要素は、「そのハラスメントによって、どのような結果が生じたか」です。 行為が同じでも、結果が重大であればあるほど、損害賠償額は高くなります。

精神疾患の発症と退職

ハラスメントにより心身に異常をきたし、「うつ病」や「適応障害」を発症した事実は、慰謝料を跳ね上げる最強のカードです。

さらに、それによって働けなくなり、退職に追い込まれた事実は、前述の「逸失利益」を請求する重要な根拠となります。

  • 医師の診断書
    ⇒ 病名だけでなく「職場でのストレスに起因する」等の記載を依頼する
  • 通院履歴
    ⇒ 治療期間が長引けば、それだけ苦痛が続いた証明になる

会社の安全配慮義務違反

あなたが会社にSOSを出したにも関わらず、会社がそれを放置したり、逆に相談したことを理由に不利益な扱い(報復)をしたりした場合、会社の責任は極めて重くなります。

これは加害者個人の問題を超え、組織としての安全配慮義務違反の度合いを深め、賠償額を大幅に増額させる要因となります。

これを証明するためには、以下の記録が不可欠です。

  • 相談履歴
    ⇒ 社内通報窓口へのメール送信履歴や、産業医面談の記録
  • 人事の対応記録
    ⇒ 「我慢しろと言われた」「配置転換を拒否された」等の発言録音

まとめ:あなたの苦しみを「法的価値」に変える

「悔しい」という気持ちを、法的に有効な「主張」に変換するのが弁護士の仕事であり、その材料(証拠)を用意するのがあなたの役割です。

この記事のポイント

  • 慰謝料の相場には幅があり、悪質性や結果の重大性によって変動する
  • 退職による収入減は「慰謝料」とは別の逸失利益として請求を検討する
  • 会社が相談を放置した記録は、組織的な責任を問うための決定的な証拠になる

ただ泣き寝入りするのではなく、適切な準備をして交渉のテーブルに着くこと。 それが、加害者に責任を取らせ、あなたの尊厳と生活を取り戻すための最も現実的な手段です。感情を証拠に変えて、正当な権利を主張しましょう。

→ 関連ページ:『弁護士費用と慰謝料のリアルな話【相場と請求の知識】』

→ 関連ブログ:『裁判例に学ぶ「ハラスメント慰謝料」高額化の背景』

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