ハラスメント後遺症? PTSDの兆候と回復【専門家解説】

ハラスメントがあった職場を退職し、
もうあの辛い環境にはいないはずなのに、なぜか心が晴れない…。
突然、過去の嫌な記憶が鮮明に蘇ってきたり、理由もなく涙が出たり、常に不安で体がこわばっていたり。そんな風に、今も苦しんでいませんか。
その消えない苦しみは、単なる「嫌な思い出」ではなく「ハラスメント後遺症」かもしれません。
この記事では、臨床心理士やカウンセラーといった専門家の知見を基に、その要点を読者のみなさまに分かりやすくお伝えすることを目的にしています。
医学的な判断や治療を勧めるものではありませんので、ご自身の症状については必ず専門の医療機関にご相談ください。
ハラスメント後遺症としてのPTSD。その具体的な兆候とは
ハラスメントは、時に人の心に深い傷、すなわち「トラウマ」を残します。そして、そのトラウマが原因で日常生活に支障をきたす状態が、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)です。
心と体に刻まれる「トラウマ」
PTSDは、災害や事故といった生命の危機に関わる出来事だけでなく、パワハラのように人格を否定され続けるといった、精神的な苦痛によっても発症することがあります。
脳が強い恐怖やストレスを感じることで、心と体の反応が通常とは違う状態になってしまうんです。
PTSDの4つの主な症状
専門家は、PTSDの主な症状を大きく4つに分類しています。もし、以下の症状に心当たりがあれば、一人で抱え込まないでください。
① 再体験(フラッシュバックなど)
トラウマの原因となった出来事を、自分の意思とは関係なく繰り返し思い出してしまう状態です。
- 突然、罵声を浴びせられた場面が頭をよぎる(フラッシュバック)
- ハラスメントを受けていた状況の悪夢を繰り返し見る
- 特定の言葉や場所が引き金となって、当時と同じ恐怖や無力感に襲われる
② 回避
トラウマを思い出させるような場所、人、状況を無意識のうちに避けるようになります。
- 以前の職場の最寄り駅に近づけない
- 上司と似た年代の男性(あるいは女性)と話すのが怖い
- 仕事の話題そのものを避けるようになる
これは、巧妙なガスライティングによって自分の感覚に自信が持てなくなった結果、自己防衛的にすべてを避けてしまう心理とも関連します。
③ 思考や感情の否定的変化
物事の考え方や感じ方が、否定的な方向へと変わってしまいます。
- 「誰も信用できない」という人間不信に陥る
- 以前は楽しめていた趣味に全く興味が湧かなくなる
- 「自分が悪かったんだ」と自分を責め続ける
- 感情が麻痺したように、喜びや愛情を感じにくくなる
④ 過覚醒
常に神経が張り詰め、心と体が過敏な状態になります。
- ちょっとした物音に異常に驚く
- 常にイライラして、怒りっぽくなる
- 眠りが浅い、寝付けないといった睡眠障害
- 集中力が続かない
なぜ忘れられない?トラウマが心に残り続けるメカニズム
「もう終わったことなのに、なぜいつまでも苦しいんだろう」
「自分の心が弱いせいだ」
と自分を責めていませんか。
それは、あなたのせいではありません。専門家の視点では、トラウマが残り続けるのには明確な理由があると考えられています。
脳の「警報装置」が誤作動している
私たちの脳には、危険を察知すると警報を鳴らす扁桃体という部分があります。トラウマを経験すると、この警報装置が過敏になり、危険が去った後も鳴り続けてしまうんです。
これが、常に不安だったり、些細なことでパニックになったりする原因です。
「安全な場所」を失ったという感覚
職場は本来、生活の基盤となる「安全な場所」であるはずです。その場所で心を踏みにじられる経験は、
「世の中に安全な場所はない」
という根源的な不信感を植え付けます。新しい環境に移っても、また同じ目に遭うのではないかという恐怖が消えないんです。
失われた自尊心と自己肯定感
特に継続的なパワハラやモラハラは、繰り返し
「お前はダメな人間だ」
というメッセージを送り続ける行為です。その結果、深く傷ついた自尊心や自己肯定感が、前向きな気持ちになることを妨げ、回復の足かせとなってしまうことがあります。
回復への3つのステップ。焦らず、自分のペースで進むために
ハラスメント後遺症からの回復は、風邪のように薬を飲んですぐに治るものではありません。しかし、適切なステップを踏むことで、少しずつ穏やかな日常を取り戻すことは可能です。
ステップ1:安全を確保し、心と体を休ませる
何よりもまず、これ以上心が傷つけられない
「安全な場所」
を確保することが最優先です。そして、十分な睡眠と栄養をとり、意識的に心と体を休ませてあげてください。
「何もしない」
ことに罪悪感を抱く必要は全くありません。脳の警報装置を鎮めるには、まず休息が必要です。
ステップ2:感情を言葉にして整理する
辛かったこと、怖かったこと、悔しかったこと。頭の中で渦巻いている感情を、信頼できる家族や友人に話したり、ノートにただ書き出したりするだけでも、心の負担は軽くなります。
「感情を言葉にする作業」
は、混乱した思考を整理し、客観的に自分を見つめ直す助けになります。
ステップ3:勇気を出して専門家の助けを借りる
PTSDの症状は、意志の力だけでコントロールするのが非常に難しいものです。
トラウマケアを専門とするカウンセラーや、精神科・心療内科の医師といった専門家は、あなたの心の傷がどういう状態で、どうすれば回復に向かうのかを一緒に考えてくれるパートナーです。
薬物療法やカウンセリングなど、適切な治療を受けることで、回復のスピードは大きく変わってきます。
まとめ
今回は、専門家の知見を基に、「ハラスメント後遺症」とPTSDについて解説しました。
- ハラスメント後遺症は、決して「気のせい」や「甘え」ではない
- PTSDには、再体験・回避・否定的感情・過覚醒といった具体的な兆候がある
- 回復には「安全確保」「感情の言語化」「専門家の助け」というステップがある
もし、この記事を読んで「自分のことかもしれない」と感じたなら、それは回復への大切な第一歩です。 回復への道は、決して一人で歩く必要はありません。
専門家を頼ることは、骨折した時に整形外科へ行くのと同じ、ごく自然なことです。
どうか一人で抱え込まず、あなたに合った助けを求める一歩を踏み出してください。
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