なぜ加害者はクビにならない? 会社が恐れる「不当解雇」

ハラスメントの被害に遭ったとき、「加害者をクビ(懲戒解雇)にしてほしい」と願うのは当然の感情です。しかし、会社にそう訴えても「検討します」と言われるばかりで、結局は軽い処分で終わってしまうことが多いのではないでしょうか。
会社は加害者を守っているのか!
と怒りたくもなりますが、実はこれ、会社が加害者を好きだからではありません。日本の法律上、会社にとって解雇は極めてリスクの高い行為だからなんです。
この記事では、会社が恐れている「不当解雇の罠」という法的な裏事情を解説し、それを逆手に取って、あなたが最も有利な結果を引き出すための交渉術をお伝えします。
会社が恐れる「解雇権濫用」という地雷
会社が加害者を簡単にクビにできない最大の理由は、労働契約法第16条にある「解雇権濫用の法理」です。簡単に言えば、
「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない解雇は無効とする」
というルールです。
会社が負う「2つの巨大リスク」
もし会社が感情に任せて加害者を解雇し、加害者から「不当解雇だ」と訴えられて裁判で負けた場合、会社には以下のペナルティが待っています。
- 職場復帰
⇒ 解雇が無効になり、加害者が堂々と職場に戻ってくる - バックペイ(賃金支払い)
⇒ 解雇していた期間の給料を、利息付きで全額支払わなければならない
会社にとって、これは金銭的にも組織運営的にも悪夢です。だからこそ、会社は「絶対に裁判で負けない」という確証がない限り、おいそれと解雇カードを切ることができないんです。
🔑 ワンポイント
「クビにできない」のではなく、会社は法的に「クビにするのが怖くてたまらない」状態なんです。
「積み上げ」がないと解雇できない
では、どうすれば解雇が可能になるのでしょうか。裁判所に「解雇もやむなし」と認めてもらうためには、段階的な処分の積み上げが必要です。
- 口頭注意・始末書
⇒ まずは注意したという実績 - 減給・出勤停止
⇒ それでも改善しない場合の重い処分 - 配転(異動)
⇒ 環境を変えてもダメだったという事実 - 解雇
⇒ 「あらゆる手を尽くしたが改善の余地なし」として、ようやく認められる
いきなりレッドカード(一発退場)が出せるのは、横領や重大な犯罪行為など、よほどのケースに限られます。通常のパワハラやセクハラでは、このイエローカードの積み重ねがないと、会社は怖くて動けません。
「クビにしろ」より通る、賢い要求法
この裏事情を知った上で、あなたはどう戦うべきでしょうか。
「クビにして!」
と一点張りで要求すると、会社は「リスクが高すぎる」と判断し、かえって交渉が膠着してしまいます。
会社が飲みやすい「実質的な排除」を狙う
解雇(法的リスク大)の代わりに、会社が実行しやすい処分を強く要求する方が、結果として加害者をあなたの目の前から消す近道になります。
- 配置転換(異動)を要求
⇒ 「私の安全配慮義務のために、彼を物理的に隔離してください」と主張する - 降格・役職解任を要求
⇒ 「管理職としての適性がない」と主張する
これらは解雇に比べて法的リスクが低いため、会社も決断しやすくなります。「解雇できないなら、せめて二度と関わらない部署へ飛ばしてください」という落としドコロを用意することが、賢い大人の戦い方なんです。
🌈 ちょっと一息
「解雇」という言葉にこだわらず、「あなたの視界から消えること」をゴールに設定すると、交渉はスムーズに進みます。
まとめ
加害者がのうのうと会社に残っているのは許せないことですが、それは会社の「事なかれ主義」だけでなく、「法律の壁」による側面も大きいんです。
敵(会社)の弱点と恐怖を知れば、攻め方も変わります。実現困難な「解雇」に固執して時間を浪費するよりも、会社が実行可能な「異動」や「降格」を確実に勝ち取り、あなた自身の平穏な環境を取り戻しましょう。
この記事のポイント
- 会社が解雇をためらうのは、裁判で負けた時の「バックペイ」や「復職」が怖いから
- 法的に有効な解雇には、注意や減給といった段階的な処分の「積み上げ」が必須
- リスクの高い「解雇」よりも、通りやすい「異動」を要求する方が、解決は早い
感情的な「願い」ではなく、会社が動かざるを得ない「理屈」を突きつけましょう。それが、自分を守る最強の盾になります。
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