「会社側の論理」でハラスメントを分析する

会社にハラスメントを相談しても
「話が通じない」
「本気で動いてくれない」
と感じてしまうことはありませんか?
それは、あなたの訴えが間違っているのではなく、あなたの訴えと、会社がハラスメント事案を処理する際の「論理」がずれているからかもしれません。
会社の判断は、感情ではなく、
「何が最も会社にとってリスクか」
という冷徹な論理に基づいている場合が多いです。
この記事では、弁護士など専門家の知見を解説し、会社がハラスメント事案で何に最も価値を置き、何を恐れているのか、その「会社側の論理」を分析します。この論理を理解することが、会社を動かす戦略的な報告の鍵となります。
会社がハラスメントで最も恐れる「2大法的リスク」
会社がハラスメント事案を放置したり、不適切な対応を取ったりした際に、会社にとって最もダメージが大きいと恐れているリスクは、主に以下の2つです。
1. 安全配慮義務違反による高額な「損害賠償」
会社は、すべての従業員に対し、安全で健康的に働ける職場環境を提供する安全配慮義務を負っています。
- 義務違反の認定
⇒ ハラスメントを放置し、従業員の心身の健康を害した場合、義務違反と認定されます - 高額な賠償リスク
⇒ 慰謝料や治療費、休業損害などを含めた高額な損害賠償を命じられるリスクを会社は最も恐れています
2. 企業イメージの毀損による「経営的ダメージ」
裁判での敗訴や、事案のSNSなどでの炎上は、会社の評判に深刻なダメージを与え、長期的な経営に影響します。
- 採用への影響
⇒ 「ブラック」な評判が立つことで、優秀な人材の採用が困難になります - 株価への影響
⇒ 特に上場会社の場合、不祥事の報道は株価の急落を招くリスクがあります
🔑 ワンポイント
会社は感情ではなく、損害賠償と経営的ダメージという冷徹なリスクを回避するために動きます
会社の処理フローの核心:「証拠の有無」と「トップの関与」
会社がハラスメント事案の「深刻度」を判断し、処理を前に進めるかどうかは、論理的な優先順位に基づいています。この優先順位の核心を理解することで、あなたが取るべき行動が見えてきます。
1. 証拠の有無が持つ絶対的な力
会社がハラスメントの事実認定を行う際、客観的な証拠は絶対的な力を持ちます。
- 証拠がある場合
⇒ 裁判になった際に敗訴する可能性が高まるため、会社はリスク回避のために迅速に対応せざるを得ません - 証拠がない場合
⇒ 「言った言わない」の問題に矮小化されるため、会社は労力と費用をかけない傾向があります
2. 経営層が事態を認識しているか
事案の処理レベルは、経営層がリスクを認識しているかで決定的に変わります。
- 現場レベルでの対処
⇒ 事態は「従業員同士の些細なトラブル」として処理され、本質的な解決は見送られがちです - トップ層への報告
⇒ 損害賠償額の見積もりやブランドイメージの毀損といった形でリスクを提示することで、トップ層を動かしやすくなります
🌈 ちょっと一息
証拠と経営的リスクの明示は、会社を動かす最も有効なロジックだと専門家は指摘しています
会社の論理を逆手に取る「戦略的な報告」の技術
会社の論理(責任回避、リスク最小化)を理解した上で、被害者側が会社を動かすための具体的な報告術を紹介します。感情的な訴えだけでなく、会社が最も恐れる論理で訴えかけましょう。
1. 「感情」ではなく「リスク」で訴える
あなたの心身の苦痛を訴えるだけでなく、その放置が会社にもたらす具体的な「リスク」を明確に伝えます。
- 報告の軸
⇒ 「ハラスメントで苦しい」ではなく、「この放置は安全配慮義務違反にあたり、〇〇万円の賠償リスクがあります」と伝えます - 弁護士の活用
⇒ 弁護士名義で会社に内容証明郵便を送付することで、会社は「本気で訴訟になる」と判断し、対応が変わります
2. 隠蔽が不可能な状況を提示する
会社が事案を隠蔽しようとする動機を断ち切ります。
- 外部相談の明言
⇒ 「すでに労働局の総合労働相談コーナーに相談済みである」ことを伝えます - 証拠の開示
⇒ 録音などの決定的な証拠の存在を示唆することで、隠蔽が不可能であることを知らせます
3. 会社に「合理的な解決策」を提供する
単に問題を指摘するだけでなく、会社がリスクを最小化できる出口戦略(解決策)を提示します。
- 解決策の提示
⇒ 「加害者を異動させ、和解金を支払うことで、訴訟リスクは回避できます」といった具体的な案を提示します
まとめ
今回は、弁護士など専門家の知見を解説し、「会社側の論理」を分析することで、ハラスメント事案を戦略的に解決する方法を解説しました。
この記事のポイント
- 会社が最も恐れるのは、安全配慮義務違反による損害賠償と企業イメージの毀損である
- 会社を動かす鍵は、客観的な証拠の有無と、経営層が事態を認識しているかである
- 報告する際は、感情論を避け、「放置すれば会社に生じる法的・経営的リスク」という論理で訴えかける
会社の論理を知ることは、会社を憎むことではなく、戦略的に自分を守る知恵となります。感情論を避け、論理の力で権利を取り戻すため、適切な知識と専門家の手を借りて行動しましょう。
→ 関連ページ:『会社を動かすための、正しい報告ルートと手順』へ
→ 関連ブログ:『ハラスメント加害者が「軽い処分」で済む本当の理由』へ

