SHARE:

その沈黙は加担と同じ? 「見て見ぬふり」の法的責任

その沈黙は加担と同じ? 「見て見ぬふり」の法的責任
その沈黙は加担と同じ? 「見て見ぬふり」の法的責任

ハラスメントの被害において

直接の攻撃と同じくらい、あるいはそれ以上に心を深く傷つけるものがあります。 それは、信頼していた同僚たちの沈黙です。

  • 「目の前で怒鳴られているのに、誰も助けてくれない」
  • 「昨日は普通に話していたのに、今日は目を逸らされた」

この孤立感は、

 「みんなも加害者と同じだ」

という絶望感を生みます。 では、法的な視点で見たとき、この「見て見ぬふり」に対して責任を問うことはできるんでしょうか。

この記事では、弁護士などの専門家が指摘する「傍観者の法的責任」の境界線と、同僚との関係をどう捉えるべきかについて解説します。

原則として「見て見ぬふり」は罪にならない

結論から言うと、非常に悔しい現実ではありますが、単に

 「助けなかった」
 「止めに入らなかった」

というだけでは、同僚に法的な賠償責任を問うことは極めて困難です。

これには、法律上の明確な理由が存在します。

道徳的義務と法的義務の違い

 「困っている人を助けるべき」

というのは、あくまで道徳的な義務(マナーや倫理)です。 日本の法律(民法)において、特別な立場にない同僚が、他人のトラブルに介入して助ける法的義務までは課されていません。

したがって、彼らが沈黙を守ったとしても、法的には以下のように判断されるのが原則です。

  • 冷たい態度ではあるが、違法ではない
  • 不法行為(法的責任)とまでは評価できない

自分の身を守るための沈黙

また、裁判所は現実的な職場の力関係も考慮します。

 「もし助け舟を出せば、今度は自分がターゲットになるかもしれない」

このような恐怖心から動けなかった場合、その人に対して

 「リスクを冒してでも助けるべきだった」

とまでは強制できないんです。

法律は、個人のヒロイズムを強要するものではないからです。

責任を問える「例外」のケースとは

しかし、すべてのケースで責任が問われないわけではありません。 その同僚の立場や具体的な行動によっては、ハラスメントへの加担とみなされ、責任を追及できる例外的なケースも存在します。

① その同僚が「管理職」である場合

もし、見て見ぬふりをしたのが上司(管理職)であった場合、話は全く別になります。 管理職には、部下が安全に働ける環境を整える職場環境配慮義務があるからです。

部下の被害を知りながら放置することは、この義務に違反したとみなされます。

  • 管理職個人の責任
    ⇒ 不作為による不法行為(民法709条)
  • 会社の責任
    ⇒ 使用者責任(民法715条)や安全配慮義務違反

このように、管理職の「見て見ぬふり」は単なる傍観ではなく、法的責任を問われる重大な過失となります。

② 積極的に「同調」した場合

単なる沈黙(不作為)を超えて、加害行為に積極的に関与した場合は、共同不法行為(民法719条)が成立する可能性があります。

具体的には、以下のような行動が該当します。

  1. 同調して笑う
    ⇒ 加害者の暴言に合わせてあざ笑う
  2. 煽り行為
    ⇒ 「もっと言ってやれ」と攻撃を助長する
  3. 意図的な隔離(切り離し)
    ⇒ 加害者と結託して、業務に必要な情報を遮断したり無視したりする

これらはもはや傍観ではなく、ハラスメントという行為に参加している共犯者としての行動だからです。

敵に回すより「証人」になってもらう戦略

感情的には、

 「助けてくれなかった同僚」

も訴えてやりたいと思うかもしれません。 しかし、専門的な視点から見ると、彼らを敵に回すのは得策ではないとのことです。

むしろ、彼らを中立な目撃者として味方につける方が、問題解決への近道となります。

客観的な証言の価値

ハラスメントの事実認定において、第三者の証言は非常に強力な証拠となります。 被害者本人の証言だけでは

 「受け止め方の問題」

とされることがありますが、第三者の声があれば状況は一変します。

  • 「確かに、あの時Aさんは怒鳴られていました」
  • 「日常的に無視などの行為がありました」

このような事実を話してもらうことができれば、加害者の

 「やっていない」

という嘘を崩す決定打になり得ます。

過去を責めず、事実だけを求める

では、どうやって協力を依頼すればよいのでしょうか。 ポイントは、

 「なぜ助けてくれなかったの…」

責めないことです。

責められた相手は防衛的になり、口を閉ざしてしまいます。 以下のように、相手の保身の気持ちに理解を示しつつ切り出しましょう。

「あの時は、あなたも怖かったと思うし、動けなかったのは仕方がないと思っています。 ただ、事実をありのままに話してくれれば、それだけで私は救われます」

このように伝えることで、彼らは安心して「証人」としての役割を果たしてくれる可能性が出てきます。

まとめ:怒りの矛先を間違えない

傍観者に対する失望や怒りは、もっともな感情です。 しかし、そこでエネルギーを使って同僚全員と対立してしまっては、あなたが職場でさらに孤立してしまう恐れがあります。

この記事のポイント

  • 単なる「見て見ぬふり」だけでは、法的な責任を問うのは難しい
  • 一緒に笑うなどの同調行為があれば、共同不法行為になる可能性がある
  • 同僚を責めるのではなく、事実を証明する協力者にするのが賢い戦略である

本当の責任を負うべきは、ハラスメントを行った加害者と、それを防止できなかった会社です。 周囲への複雑な感情はいったん脇に置き、まずは本質的な問題の解決に向けて、冷静にカード(証言)を集めていきましょう。

→ 関連ページ:『Step 3: 加害者と「心の防御壁」を築く方法』

→ 関連ブログ:『裁判例に学ぶ「ハラスメント慰謝料」高額化の背景』

あなたへのおすすめ