休職・復職判定の鍵となる「主治医」の役割と意見書

主治医の先生に復職していいと言われたから、来月から戻れるはず
そう思っていませんか?
実は、ハラスメントによる休職・復職の現場では、主治医の診断書が会社側に
「根拠不十分」
として突き返されたり、意図とは違う解釈をされて不利益を被ったりするケースが後を絶ちません。
この記事では、専門家の知見に基づき、あなたの最大の味方である「主治医」と、会社のゲートキーパーである「産業医」の決定的な役割の違い、そしてあなたの身を守るための「最強の意見書(診断書)」をもらうためのコミュニケーション術を解説します。
構造理解:「主治医」と「産業医」の決定的な違い
復職を巡るトラブルの多くは、医師の役割に対する認識のズレから生じます。 まず理解すべきは、この二者は見ている「ゴール」が全く異なるという点です。
役割のズレがトラブルを生む
主治医(かかりつけ医)は、あなた自身が選び、あなたと契約している医師です。 その最大の目的は
「あなたの健康回復」と「日常生活の安定」
にあります。あなたの味方であり、あなたの訴えに寄り添うのが基本スタンスです。
一方、産業医は、会社が選任し、会社と契約している医師です。 その目的は
「従業員が安全に就業できるか」
を判断し、会社に意見することにあります。中立的な立場とされていますが、判断基準は常に
「職場で働けるか」
に置かれます。
「治った」の定義が違う
トラブルの核心は、両者の「治った(復職可)」の定義の違いにあります。
- 主治医の「復職可」
⇒ 「日常生活が送れるようになった」「本人が復帰を希望している」レベルで出されることが多い - 産業医の「復職可」
⇒ 「再発のリスクなく、以前と同じ業務パフォーマンスを発揮できる」「ストレスのかかる職場環境に耐えられる」レベルを求められる
このギャップにより、主治医が「復職OK」を出しても、産業医面談で「時期尚早」と判断され、復職が認められないケースが頻発するんです。
運命を分ける「意見書(診断書)」の記載内容
主治医の書く診断書は、単なる病気の証明書ではありません。 法的には、会社(使用者)に対して安全配慮義務の履行を求める、強力な「要求書」の性質を持ちます。
ただの「復職可能」では危険な理由
もし診断書に
「〇月〇日より復職可能と判断する」
とだけ書かれていたら、どうなるでしょうか。 会社側は
「完全に治った(=配慮は不要)」
と解釈し、あなたをハラスメントがあった元の部署、元の業務、元の人間関係の中に無防備に戻す可能性があります。これでは、再発のリスクが極めて高くなってしまいます。
会社を縛る「就業制限」の魔力
あなたを守るために不可欠なのが、診断書における「就業上の配慮(条件)」の記載です。 復職可能という言葉に続けて、具体的な条件を主治医に明記してもらう必要があります。
- 配置転換
⇒ 「現部署での就労は再発リスクが高いため、配置転換が望ましい」 - 残業制限
⇒ 「今後3ヶ月間は残業を禁止する」 - 業務内容
⇒ 「対人折衝業務を避け、事務作業を中心とする」
このように医師の医学的見地からの意見として「条件」が明記されていれば、会社は安全配慮義務の観点から、これを無視することが法的に非常に難しくなります。
🔑 ワンポイント
「配置転換」などの人事は会社の権限ですが、医師が「医学的に必要」と判断した場合は、会社はそれを尊重する義務が生じます
主治医を「最強の味方」にする伝え方
多くの精神科医・心療内科医は「医療」のプロですが、「あなたの会社の労働環境」のプロではありません。 そのため、診察室であなたが具体的に状況を伝えない限り、漠然とした診断書しか書けないのが実情です。
医師は「現場」を知らない
主治医は、あなたの職場にどれだけ意地悪な上司がいるか、どれだけ過酷なノルマがあるかを知りません。
「先生にお任せします」
という姿勢では、あなたの身を守る診断書は完成しません。
「書いてもらう」ための戦略
診察室では、感情や辛さを訴えるだけでなく、「診断書に何を書いてほしいか」を戦略的に伝える必要があります。
- 職場のリスクを伝える
⇒ 「元の上司の顔を見ると動悸がするため、同じ部署には戻れません」と具体的に伝える - 具体的な配慮を提案する
⇒ 「残業禁止と書いていただけると、会社が守ってくれる可能性が高いです」と依頼する - メモを持参する
⇒ 限られた診療時間で正確に伝えるため、書いてほしいポイントをまとめたメモを渡すのが最も効果的
🌈 ちょっと一息
医師によっては「そこまで書けない」と言う場合もありますが、事情を説明し「医学的な見地から配慮が必要」という文脈であれば協力してくれることが多いです
まとめ:診断書は、会社への「処方箋」である
漫然と書いてもらった診断書はただの紙切れですが、戦略的に記載された診断書は、会社を動かす強力な「処方箋(法的根拠)」になります。
この記事のポイント
- 主治医は「本人の回復」、産業医は「就業の安全性」を重視するため、判断がズレやすい
- 診断書に「配置転換」や「残業禁止」などの具体的条件を明記してもらうことが重要
- 医師任せにせず、「書いてほしい内容」を具体的に依頼するコミュニケーションが必要
主治医任せにするのではなく、あなた自身が医師と連携し、自分の身を守るための言葉を伝えてください。その一枚の診断書が、あなたが安心して働ける環境を取り戻すための、最大の武器になるはずです。
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