「パワハラ」という言葉は知っていても、
その指し示す範囲は広く、漠然としたイメージしか持てていないかもしれません。
「自分の受けているこの行為は、本当にパワハラなのだろうか?」と、確信が持てずに悩んでいませんか?
しかし、国(厚生労働省)は、職場におけるパワーハラスメントを6つの明確な類型(タイプ)に分類し、その姿を具体的に定義しています。
これは、誰かの主観的な意見ではなく、社会的なコンセンサスに基づいた客観的な基準です。
この6つの「顔」を知ることは、あなたを苦しめる問題の正体を正確に捉え、あなたの経験に「名前」を与えるためにたいへん重要な第一歩です。
自分の受けた行為がどの類型に当てはまるのかを理解することで、漠然とした苦しみは、対処すべき具体的な「問題」へと変わっていきます。
―― このページはこんな3本柱でお届けします ――
🚀 パワハラの6類型とは / 🎯 具体例で深く理解する / 🔥 あなたの経験を分類する
① 身体的な攻撃
これは、パワハラの6類型の中で最も分かりやすく、悪質な行為です。
暴力や傷害に直接つながる、許されない行為
その名の通り、相手の身体に対して、直接的・間接的に危害を加える行為全般を指します。
本来の指導や教育の形ではなく、いかなる理由があっても正当化することはできません。
具体的には、どのような行為か
- 殴る、蹴る、平手打ちをする、髪を引っ張る、体を強く押す
- 物で叩く、書類で頭をはたく
- 相手に物を投げつける(たとえ当たらなくても、威嚇行為として含まれます)
- 胸ぐらをつかむ、ネクタイを強く引っ張る
🔑 ワンポイント
身体への攻撃は、指導の範囲を完全に逸脱した単なる「暴力」です。場合によっては、刑法の暴行罪や傷害罪といった犯罪に該当する可能性もあります
指導との境界線は存在しない
言うまでもありませんが、身体的な攻撃と指導との間に境界線は存在しません。
遅刻やミスに対する罰としての暴力
「罰として」や「気合を入れるため」といった言い訳のもと、身体的な苦痛を与えることは、教育的な指導とは全く無関係です。
それは、相手を恐怖で支配しようとする、極めて原始的で未熟な支配欲の表れに過ぎません。
もし、あなたがこのような行為を受けたのであれば、それは100%、疑う余地なくパワハラです。
🌈 ちょっと一息
あなたの身体は、誰にも傷つけられることのない、あなただけの大切なものです。もし少しでも身の危険を感じたら、それはすぐにその場から離れるべきだという緊急サインです
② 精神的な攻撃
言葉や態度によって相手の心を深く傷つけ、人格や尊厳を踏みにじる行為です。
最も多く、そして最も心を蝕む言葉の暴力
パワハラの中でも最も発生件数が多く、裁判でも認定されやすい類型です。
目に見える傷は残りませんが、被害者の心に深刻なダメージを与え、うつ病などの精神疾患を引き起こす大きな原因となります。
具体的には、どのような行為か
- 「バカ」「アホ」「死ね」「辞めちまえ」といった、相手を侮辱する言葉
- 「給料泥棒」「本当に使えない」「君がいるだけで空気が悪くなる」といった、人格や存在価値を否定する言葉
- 他の従業員の前で、大声で、長時間にわたり執拗に叱責する
- 相手の能力を過剰に低く評価し、それを執拗に本人に言い聞かせる
- 相手の家族や出自、容姿など、業務に関係ないことで侮辱する
🔑 ワンポイント
業務上のミスに対する指導と、人格を否定する暴言は全くの別物です。相手の尊厳を傷つける言葉は、すべて精神的な攻撃に該当します
脅迫や名誉毀損にもなり得る
「この仕事ができなかったら、どうなるか分かってるんだろうな?」
といった、相手に恐怖心を抱かせる言動は脅迫と見なされることもあります。
また、他の従業員の前で「あいつは不正をしている」といった事実無根の噂を流すことは、名誉毀損にあたる可能性もあります。
🌈 ちょっと一息
言葉の暴力が心に残す傷は、目には見えませんが非常に深刻です。あなたの心が「傷ついた」という事実を、他の誰でもなくあなた自身が認めてあげることが回復の第一歩です
③ 人間関係からの切り離し
特定の個人を職場内で孤立させ、精神的に追い詰める、陰湿なハラスメントです。
コミュニケーションを遮断し、孤立させる
業務を円滑に進める上で不可欠な、人間関係という土台そのものを破壊する行為です。
仲間外れや無視といった形で、被害者に深刻な疎外感と精神的苦痛を与えます。
具体的には、どのような行為か
- 一人だけ別の部屋に席を移す、オフィスの隅に隔離する
- 会議や打ち合わせに意図的に参加させない、議事録などの情報を共有しない
- 話しかけても無視する、挨拶を返さない
- 歓送迎会などの社内イベントに、一人だけ声をかけない
🔑 ワンポイント
業務上合理的な理由なく、特定の個人を孤立させる行為は、集団内での「いじめ」そのものです。これは、個人のパフォーマンスだけでなく、職場全体の生産性をも低下させます
チームで働く権利の侵害
会社で働くということは、同僚と協力し、コミュニケーションを取りながら業務を進める権利を持つということです。
人間関係からの切り離しは、働く上での基本的な権利を奪う行為と言えます。
意図的に孤立させられ、業務に必要な情報が与えられない状況では、誰であっても良いパフォーマンスを発揮することはできません。
🌈 ちょっと一息
あなたが感じている「孤独」は、あなたのせいではありません。それは、人間関係という生命線を断ち切ろうとする、卑劣な攻撃によるものです
④ 過大な要求
本人の能力や経験をはるかに超える、到底達成不可能なレベルの業務を課すことです。
遂行不可能な仕事で、無力感を植え付ける
このタイプのハラスメントは、「成長のため」という大義名分のもとに行われることが多く、被害者も「自分の能力が低いからだ」と自分を責めてしまいがちです。
具体的には、どのような行為か
- 新入社員に対して、ベテラン社員でも難しいような大量の業務や高いノルマを課す
- 必要な教育や研修を一切行わないまま、未経験の業務を丸投げする
- 業務に必要な情報や権限を与えずに、責任だけを押し付ける
- プライベートな時間を使わないと終わらないような仕事量を、恒常的に与える
🔑 ワンポイント
適切な教育やサポート体制もなく、一方的に達成不可能な目標を課すのは、指導ではなく、相手を潰すための「嫌がらせ」です
意図的な失敗への誘導
過大な要求の背景には、相手を意図的に失敗させ、それを口実にさらに厳しく叱責するという、悪質な目的が隠れている場合があります。
「これくらいできて当然だ」と言いながら、失敗すると「だからお前はダメなんだ」と精神的に追い詰めるのです。これは、人の成長を願う指導者の姿とは、かけ離れています。
🌈 ちょっと一息
できないのは、あなたの能力のせいではありません。それは、誰がやってもできない無謀な要求です。自分を責める罠に、どうかはまらないでください
⑤ 過小な要求
過大な要求とは逆に、本人の能力や経験とかけ離れた、簡単な仕事しか与えない行為です。
やる気やプライドを奪い、自主的な退職に追い込む
このハラスメントは、暴言などの分かりやすい攻撃を伴わないため、周囲に気づかれにくいという特徴があります。
しかし、仕事におけるやりがいや自尊心をじわじわと奪い、被害者を「自分は会社に必要ない人間だ」と感じさせる、非常に残酷な攻撃です。
具体的には、どのような行為か
- 専門職として採用されたにもかかわらず、一日中コピーやお茶くみ、シュレッダー作業だけを命じる
- 営業成績トップの社員を、何の理由もなく本人の経験が活かせない配置転換をする
- 単純作業しか与えず、キャリアアップにつながる仕事を一切させない
🔑 ワンポイント
本人の能力や意欲を意図的に無視し、キャリアの発展を妨げる行為は、労働契約で約束された「働く権利」を侵害する、巧妙なハラスメントです
退職勧奨としての側面
会社が自主的な退職を促す目的で、意図的に過小な要求を行うケースもあります。居心地の悪い状況を作り出し、被害者自ら「辞めたい」と言い出すように仕向けるのです。
これは、実質的な解雇を目的とした、悪質な退職勧奨と言えます。
🌈 ちょっと一息
仕事のやりがいを奪われることは、自分の存在価値を否定されることにも似た、大きな苦しみを伴います。その悔しさは、決して些細なことではありません
⑥ 個の侵害
業務とは関係のない、個人のプライベートな領域に過度に立ち入り、干渉する行為です。
公私の境界線を踏みにじる、プライバシー侵害
職場は仕事をする場所であり、上司や同僚が、あなたのプライベートに必要以上に踏み込む権利はありません。
業務上の関係性を悪用し、私的な事柄を詮索したり、管理しようとしたりする行為は、明確なパワハラです。
具体的には、どのような行為か
- 恋人の有無や交際状況、結婚や出産の予定などを執拗に詮索する
- 休日の過ごし方について、詳細な報告を義務付ける
- 信仰する宗教や支持政党について、否定的な発言をする
- 本人の同意なく、個人のSNSを監視し、その内容について職場で言及する
- 職場の飲み会への参加を強制する
🔑 ワンポイント
業務の適正な範囲を逸脱したプライベートへの過度な干渉は、個人の尊厳を傷つけるプライバシー侵害であり、パワハラに該当します
アウティングや思想調査にも
性的指向や性自認(SOGI)、病歴といったセンシティブな個人情報を、本人の同意なく他の従業員に暴露する「アウティング」は、極めて悪質な個の侵害です。
また、特定の思想・信条を持つことを理由に、業務上の不利益な扱いを示唆することは、憲法で保障された「思想・良心の自由」を脅かす、重大な人権侵害にもつながります。
🌈 ちょっと一息
あなたのプライベートは、あなただけの聖域です。そこに無断で土足で踏み込んでくるような行為に対して、あなたが我慢する必要は一切ありません
まとめ
ここまで、パワハラの6つの顔について、具体的に見てきました。 あなたの経験は、これらのうちのいずれか、あるいは複数に当てはまったのではないでしょうか。
- 身体的な攻撃⇒ 暴力
- 精神的な攻撃⇒ 暴言・侮辱
- 人間関係からの切り離し⇒ 隔離・無視
- 過大な要求⇒ 遂行不可能な業務の強制
- 過小な要求⇒ 能力や経験に見合わない仕事の強制
- 個の侵害⇒ プライベートへの過度な干渉
大切なのは、あなたの苦しみに「これは〇〇というパワハラだ」と、客観的な名前を付けられたことです。
それはもう、あなたの「気のせい」や「思い込み」ではありません。社会的に認知された、明確な「問題行為」なのです。
この知識を武器に、次のページではパワハラ以外の「セクハラ、モラハラ…心を蝕む攻撃の種類と実例」についても理解を深め、あなたを苦しめるものの正体を、さらに明らかにしていきましょう。